住宅ローンを借りるときに、問題となるのが団信(団体信用生命保険)のこと。
住宅ローンの審査は、「生命保険に加入できる健康状態」であることが必須条件です。
この団信に加入できないと、自分の信用情報に何も問題がなかったとしても、審査はNGになります。たとえ年収4,000万円の経営者であったとしても、ガンの履歴があると金融機関は非情にもNGを出します。
そこでつい考えてしまうのが、健康状態を告知せずに加入すること、です。いわゆる告知義務違反という行為です。
告知義務違反をすると、銀行や保険会社の審査はNGにならず、無事融資を受けることができますが・・・本当に大丈夫なのでしょうか。
ある事例をご紹介します。
病歴を隠して住宅ローンを借りた夫・・・
ある工務店で、30代の若い会社員夫婦が住宅ローンの事前審査の申し込みをしていました。世帯年収は十分で、審査において何の不安もありません。
ただ、ひとつだけ、問題があったのです。
それは、夫に病歴があること。保険業界で言うところの「既往症」というものです。
その病名は「膠原病(こうげん病)」
膠原病(こうげんびょう)とは、関節リウマチや全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群など、自己免疫の異常によって全身の結合組織に炎症が起こる病気の総称です。
重症化すると関節が破壊され、重度の障害を負うことになる難病です。
全ての保険会社では保険加入を断られます。一部、緩和型の生命保険であれば加入できる保険もありますが、死亡保険(収入保障保険)については2025年現在、2社のみ引き受け可能な会社があるだけです。
団信は加入できません。団信は銀行ではなく生命保険会社が引き受けする生命保険です。住宅ローンに付属する団信だからといって、甘い取り扱いはありません。
膠原病の場合、団信(団体信用生命保険)は加入できません。
団信に加入できなければ、個人信用情報に問題がなくても銀行での住宅ローンの融資はNGになります。1円も借りられません。
となると、住宅営業マンにとっては家が売れないということになります。
フラット35という住宅ローン商品であれば、団信は任意加入であるため借りられます。しかし金利が変動金利と比べて高く、万が一のときには住宅ローンの返済は配偶者が負うことになります。
そこで住宅営業マンが考えたのは・・・
「病気のことは告知せずに銀行で契約させてしまえ・・・」ということでした。告知義務違反教唆という犯罪行為です。
これに対して、切羽詰まっているお客さんもよく考えずに同意。
とある地方銀行で、膠原病であることを告げず、告知義務違反をして住宅ローンの契約をしてしまったのです。
告知義務違反がバレてしまった
無事家が建ち、入居してから3年後、あるきっかけで銀行に告知義務違反がバレてしまいました。
このご主人があるとき銀行の窓口で生命保険の勧誘を受けたのです。そのとき、ついうっかりと自分の既往症、つまり膠原病を患っていることを話してしまいました。
「え・・・住宅ローンの団信のときはどうしたんですか・・・」顔が曇る銀行員。
ご主人は返答に困り、正直に答えました。
住宅メーカーの営業マンから告知義務違反をするように言われたこと、膠原病は団信の申し込み前に診断されていること、など・・・
住宅メーカーの営業マンからはこう言われていました。
「もし告知義務違反がバレても2年で時効です」と。
しかし膠原病は生命保険に一切加入できない難病です。膠原病であることを意図的に告知せず契約を結んだとしたら、重大な詐欺行為にあたります。2年で時効というのは、軽度の既往症で悪質性がないものに限ります。
このケースでは明らな悪質性が認められます。そうなると時効は関係なく、詐欺行為になってしまいます。
後日、銀行から告げられたのは団信契約の解除と、住宅ローンの一括返済の要求でした。
フラット35で借換を行い、なんとか一括返済を行うことができましたが、団信での重大な詐欺行為によって生命保険協会の契約内容登録制度に登録されてしまったため、他の団信はおろか、今後の生命保険契約自体がどこでもNGとなってしまいました。
ご主人に万が一のことがあった場合も、住宅ローンは免除されません。妻が相続し、返済していく義務があります。
早めに繰り上げ返済で完済させるしかなさそうです・・・
団信に加入する時の注意事項
このように団信の契約を甘く見ていると、家計に大きなダメージをくらいかねません。
団信に加入する時は次のことに注意してください。
Q1.告知は口頭で伝えておけば問題ない?
住宅営業マンや金融機関の担当者に口頭で伝えるだけでは、告知したことにはなりません。
保険会社は、告知書の内容を元に審査を行います。口頭ではなく、告知書に病名・病歴をすべて記入して告知してください。
告知書に記入するかしないかは100%自己責任です。告知しないように教唆されたとしても、告知しなかったのは自分の悪質性によるものと判断されるので注意してください。
※借入金額や保障内容によっては、健康診断の結果証明書の添付が必要な場合があります。
Q2.既往症があると、団信には加入できない?
既往症があるからといって、団信に加入できないわけではありません。正直に告知書に記載して保険会社からの判断を待ちましょう。
インフルエンザやコロナウィルスなどで「3ヵ月以内の治療」や「3年以内の病歴」に該当する場合もありますが、完治していると加入できる可能性が高いと言えるでしょう。
他にも入院や手術をせずに治療し、すでに完治している病気など、状況によっては引き受け可能な場合もあります。
Q3.住宅ローンの借り換えで以前の団信は引き継げる?
住宅ローンの借り換えで、以前の団信は引き継げません。
新しい金融機関で改めて団信に加入しなければならないため、新規の借り入れ時と同様に告知が必要です。
借り換え時の健康状態によっては、団信に加入できない可能性があります。団信に加入できなければ借換えは不可能です。
Q4.健康診断で精密検査の指示を受けたが行っていない。問題はある?
団信を引き受ける保険会社の告知書の様式にもよりますが、ほとんどの場合、精密検査を指示を受けて検査していない場合はその旨、記載しなければなりません。
保険会社の判断を待つことになりますが、追加で精密検査の結果表の提出を求められることがあります。
当然ながら精密検査の指示を受けた旨を告知しなければ、告知義務違反となります。
Q5.病院には行っているが薬をもらっているだけ。それでも告知が必要?
投薬を受けているということは、医師の診察を受けていることになるため、告知が必要です。
たとえ通院は1回であっても薬を処方されている場合も告知しなければなりません。
Q6.告知に当てはまる病気が2つあるが、うち1つは治療が終わったため告知は不要?
治療が終わっている病気であっても、告知書の質問に該当する傷病歴があれば告知は必要です。
複数の病気・ケガがある際は、すべてを記入してください。
Q7.告知後に病気が判明したら再告知は必要?
告知書には、あくまで告知日時点の情報を記載するものです。
告知時点で虚偽や記入漏れがなく正しい告知をできている場合、後から病気がわかったとしても再告知の必要はありません。
Q8.住宅営業マンに「告知しなくていい」と言われたけどどうすればいい?
告知義務違反は重大な詐欺行為です。契約違反として住宅ローンの一括返済を求められることもありえます。告知義務違反は絶対にやめてください。
既往症があるけど住宅ローンを借りたい!そんな時はどうする?
膠原病など重い病歴を持っている場合でも、住宅を購入することは可能です。
ただし、住宅専門の独立系FP事務所に相談しアドバイスをもらう必要があります。専門的な知識と経験を駆使し、正当な方法で住宅ローンの借入に成功できる可能性があります。
長岡FP事務所に一度ご相談ください。