住宅を建てる際、地盤の強さが不十分な場合に「地盤改良」が必要になります。
ご存じの方も多いかもしれませんが、地盤改良工事は決して安くはありません。建物の面積に応じて金額が異なりますが、100万円程度を見込んでおく必要があります。
この記事では代表的な地盤改良の種類とその費用、特徴を解説しながら、地盤改良にまつわる裏事情も解説していきます。
地盤改良は義務なのか?
地盤改良工事は法的な義務ではありません。
しかし、地盤の強さを調べる「地盤調査」は義務です。
建築基準法では建物の基礎が構造耐力上、安全であることが定められています。その安全性の根拠として地盤調査を行うことが義務付けられているのです。
建築基準法では次のように書かれてあります。
つまり地盤調査の結果、補強が必要な土地であるという結論に達すると、地盤改良工事を必ず行うことになるので、「地盤改良=必要と判明すれば施工するのが義務」といえます。
地盤改良工事を行わなければ、「住宅瑕疵担保責任保険」に売主が加入できません。
瑕疵担保責任という言葉を聞いた言葉あるでしょうか。販売した建物に欠陥があったときには売主が負う責任です。瑕疵担保責任を負う売主は、10年間、建物に一定の瑕疵(欠陥)があった場合に修復あるいは損害賠償をする義務があります。
この責任に備えるために住宅瑕疵担保責任保険に売主が加入するのですが、その保険の契約の際に必須なのが、地盤調査と、必要な場合の「地盤改良工事」なのです。
地盤調査のやり方
戸建て住宅であれば、『SWS試験(旧スウェーデン式サウンディング試験)』が行われます。
これは建物の四隅と中央の計5カ所における地盤の強度を調査する方法です。非常に難しい技術なので解説は省略しますが、費用が比較的安いと覚えておくといいでしょう。
5万円~10万円が相場です。
一方で、ボーリング調査であれば20万円~30万円程度になります。こちらは地盤を掘削し、強度を調査する方法ですが、戸建て住宅にはほとんど使用されません。
地盤改良の種類と費用について
では地盤改良工事の種類を見ていきましょう。
1. 表層地盤改良工法

概要:
軟弱な地盤が地表面から2メートル以内である場合に使われる工法で、地表から掘削し、セメント系固化材と土を混ぜて転圧し、強固な地盤をつくります。
費用の目安:
1㎡あたり5,000~10,000円程度
一般的な住宅で30~80万円ほどかかることが多いです。
メリット:
- 比較的安価で施工が早い
- 小規模な住宅に適している
デメリット:
- 地盤の深い軟弱層には対応できない
- 大型建物には不向き
2. 湿式柱状改良工法

ソイルセメントコラム工法とも呼ばれます。
概要:
軟弱層が2~8メートル程度の深さまである場合に用いられます。地中に円柱状のコンクリート柱を複数本埋め込み、建物を支える工法です。
費用の目安:
1本あたり1.5~3万円程度
総額は60~150万円ほどが一般的です。
メリット:
- 幅広い地盤条件に対応可能
- 多くの住宅で採用されている実績がある
デメリット:
- セメント系固化材(ソイルセメント)の使用により、地盤との相性によっては六価クロムが発生することがあります。
- 地中の障害物によって施工が困難なことがある
六価クロムの深刻な危険性
六価クロムで土壌が汚染されると、手足、顔などに発赤、発疹が起こり、炎症が生じることが知られています。鼻の粘膜やのどへも炎症が生じやすく鼻中隔の内部の組織にまで炎症が及ぶことがあります。
国際がん研究機関(IARC)は六価クロム化合物について、人に対する発がん性を指摘しています。
六価クロムが引き起こした公害としては、昭和48年に東京都江東区の化学メーカー跡地での土壌汚染による健康被害が有名です。当時近隣の子供達は皮膚炎が多かったといいます。また化学メーカーの従業員たちには深刻な健康被害があり、訴訟へと発展しました。
ソイルセメント工法での地盤改良は、地盤によっては六価クロムを発生し、住んでいるだけで病気となる危険があると覚えておきましょう。六価クロムを発生させない技術も進んでいるため、住宅メーカーに対策の有無を問い合わせてください。
3. 鋼管杭工法、RCパイル工法

軟弱地盤の多くはこの工法が使われます。「杭打ち」などと呼ばれる工法で、信頼性が高いのが特徴です。
概要:
軟弱地盤が深く、地盤改良材では対応できない場合に用いられる工法で、鋼製(PC)あるいはコンクリート製(RC)の杭を硬い支持層まで打ち込み、建物を支持します。
費用の目安:
1本あたり3~5万円程度
全体で100~200万円程度になることが多い。
メリット:
- 深い地盤でも対応可能
- 信頼性が高く、中高層の建物にも対応可能
デメリット:
- 他の工法に比べて費用が高い
- 振動・騒音が発生するため、住宅密集地では注意が必要
地盤改良の注意点
ここからはファイナンシャルプランナーらしく、地盤改良工事とお金の裏事情について書いていきます。
地盤改良をした土地を更地に戻すときには、多額のお金がかかる
地盤改良をして安全な建物を建てるのはいいことですが、問題は、遠い将来に建物を解体するときのことです。
地中に埋めた杭や柱は、決して土地全体の安全性を上げるわけではなく、あくまでもそこに建てられた建物を補強するためのものです。建物が無くなったら、地中の杭の意味は無くなります。再利用もできません。
そのため、建物を解体したら、杭を抜く工事も同時に行うことになります。その費用は地盤改良工事費用の約2倍と考えておきましょう。100万円かかっていたら、撤去費用は200万円です。
建物の解体費用は坪当たり4万円~8万円ですから、延床面積35坪の建物の場合、140万円~280万円かかることになります。それに杭の撤去費用をプラスすると、340万円~480万円という解体費用となってしまうのです。
特にソイルセメントコラム工法の場合は、地盤を掘削し、セメントを破砕する大掛かりな撤去となるため、高額な費用が想定されます。
地中に杭を残しておくと、大問題が発生する
では、地中に杭や柱を残したまま、撤去しないという方法はあり得るでしょうか。
地盤改良によって埋設したものは、建物を解体したあとは産業廃棄物となります。産業廃棄物を残置したままでは、瑕疵物件として他人に譲渡することはできません。
また、他人に譲渡せず、自分で駐車場などに使う場合はどうでしょうか。
地中に埋設した柱や杭は、時間の経過とともに劣化してしまいます。地中に空洞が空き、そこから土砂崩れや地盤沈下を招くことも考えられ、近隣に被害を及ぼしかねません。地中杭は完全に撤去すべきですが、現実には残置されるケースも増えていくと思われます。
建物の寿命は永遠ではありません。大手メーカーの高級住宅でも寿命は100年程度、ローコスト住宅ならば35年程度と考えるのが妥当でしょう。子供もしくは孫の世代が困らないためにも、家を買う時には解体費用までライフプランに加えて準備しておく必要があるのです。
(基礎)第38条
建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。
(地盤及び基礎ぐい)第93条
地盤の許容応力度及び基礎ぐいの許容支持力は、国土交通大臣が定める方法によつて、地盤調査を行い、その結果に基づいて定めなければならない。
(引用:建築基準法施行令)