医療保険の入院日額は「60日」では足りない。その理由について解説します➡半年間入院するケースは今もある

保険会社で医療保険に加入するとき、悩むのが「入院日数の上限」のこと。

入院日数の上限とは、入院給付金(1日あたり5,000円とかのあれ)が何日分まで出るかという限度日数のことです。

この問題になると、多くの人はこう言います。

病院は今どきそんなに入院させないよ。ガンでも1週間で退院だね

だから入院日数も60日が限度でいいと言うのです。

これ、本当に大丈夫なのでしょうか。この記事では医療保険の入院日数の上限について考えていきます。

「高額療養費制度があるから医療保険は不要」という人たち

極論を言う人だと、こんな意見があります。

そもそも医療保険なんて要らないのよ

そんな意見を受けて、こんなことを言う保険営業マンまで。

日本には高額療養費制度があるんですよ?医療費には上限があるので医療保険はそんなに必要ありません。その代わり保険でお金を貯めましょう

どうやら高額療養費制度があるから医療保険は不要らしいのですが・・・本当でしょうか。

高額療養費制度とは?

高額療養費制度とは、毎月1日から月末までの間にかかった医療費について、所得に応じて上限を決めますよという制度です。

上限を超えた分の医療費は払う必要がありません。

その所得区分は次のようになっています。(70歳以下の場合)

所得区分自己負担限度額(月額)多数回該当(4回目以降)
区分ア(年収約1,160万円以上)252,600円+(総医療費-842,000円)×1%140,100円
区分イ(年収約770万~1,160万円)167,400円+(総医療費-558,000円)×1%93,000円
区分ウ(年収約370万~770万円)80,100円+(総医療費-267,000円)×1%44,400円
区分エ(年収~約370万円)57,600円44,400円
区分オ(住民税非課税世帯)35,400円24,600円

4回目以降の該当になると、かなり安く済みますね。

これを見て、「医療保険は要らない」「貯金で対応できる」「医療保険のかけ金がもったいない」という極論が出てくるわけです。

しかしそれは、机上論かもしれません。実際には高額療養費制度があっても入院や治療に伴う費用が高額になるケースは多々あるのです。

高額療養費の「月またぎ」とは?

ひとつの理由が、高額療養費の月またぎの問題です。

「高額療養費制度の月またぎ」とは、医療費の支払いが1か月の中で完結せず、複数の月にまたがって発生することを指します。

たとえば、以下のような場合です:

月またぎの例

  • 1月25日:入院し医療費8万円支払い
  • 2月5日:退院し医療費8万円支払い

この場合、

  • 各月の医療費は8万円ずつ、合計16万円の支払い
  • 合計16万円でも、制度は「暦月単位」で計算する
  • それぞれの月で限度額未満だと高額療養費の対象にならない

高額療養費は、1入院単位で計算するのではなく、あくまでも歴月(1日から月末まで)を単位とします。

ちなみにこのケースでは10日間入院していますね。もし入院保険を1日5,000円という形で契約をしていたとしたら、5,000円×10日=5万円がおりてきます。

自己負担の方が高額になります。医療保険に入っているのに11万円の持ち出しが必要です。

高額療養費制度は該当せず、医療保険を使ってもまかなえないのは困りますね。医療保険は必要なものですが、高額療養費制度を詳しく知り、緻密なシミュレーションをして保険に加入する必要があります。

入院の支払いは医療費だけではない

入院をしたとき、支払いは医療費だけではありません。

次のような費用も必要です。

費用の種類内容健康保険適用備考
食事療養費(食事代)入院中の食事にかかる費用一部自己負担(定額)1食あたり460円(一般)など、所得に応じて減額あり
差額ベッド代個室・特室など希望した病室の追加料金❌ 保険適用外1日数千円〜数万円。希望しなければ原則不要(※医師の指示等で例外あり)
テレビの使用料病室内設備のレンタル料❌ 保険適用外日額またはプリペイド式。500円/日が目安
病衣・タオル・おむつのレンタル代パジャマ・タオルの貸出❌ 保険適用外セットで1日300〜500円程度。持参すれば不要
洗濯代・日用品代洗濯機利用やティッシュ・歯ブラシ等❌ 保険適用外院内の売店・自販機・外注業者利用など
お見舞いの駐車場代病院駐車場など❌ 保険適用外1回利用で200円~
付き添い費用家族やヘルパーの宿泊・食費など❌ 保険適用外小児・認知症患者などで必要になることあり
リハビリシューズリハビリ用の靴❌ 保険適用外スリッパは禁止
スニーカーも禁止の病院もある
お見舞いのお返しお見舞いに来た人への返礼品

「個室なんか入らないよ」と考えるかもしれませんが、いびきをかくので気を使う人や、見舞いの人と会話を気兼ねなくしたい人は、個室を優先的に利用するでしょう。

病気やけがによってはおむつが必要な時もあります。

テレビカードは備え付けのテレビを見るために必要で、1日中見ているとすぐにカードの残量が減ってしまいます。2日に1枚(1,000円)のペースで消費するため、月に15,000円くらい必要です。

もし脳梗塞で30日、個室に入院し、パジャマやタオル・おむつを使用したとすると、月の請求額は高額療養費制度を使っても、約40万円程度になります。

入院費40万円をまかなうために医療保険はどう入る?

ではこの40万円をどうやってまかなうべきでしょうか。

医療保険でもし、1日15,000円の給付金がおりる保険だとします。

15,000円×30日=45万円

これならなんとか支払えそうです。

もしくは、入院1日10,000円、入院一時金特約10万円であれば、

10,000円×30日+100,000円=40万円

これでも良さそうですが、少し持ち出しが出てしまうでしょう。

入院が長くなる病気の場合は、1日15,000円は用意しておくべきかもしれません。

その他、保険会社によって様々な特約が用意されているので、チェックしてみてください。

「長く入院できない時代になった」の間違い

現在、たしかに月単位に及ぶ長期間の入院は多くはありません。

これには原因があります。

新しい診療報酬制度(DPC制度)の導入

日本では「DPC(Diagnosis Procedure Combination:包括払い制度)」が2003年から導入されました。

これによって入院日数が長くなるほど病院の収入が減る仕組みになっており、病院は効率的に早期退院もしくは転院を促進させるようになったのです。

医療保険は不要であると唱える人たちは、この点を指摘します。長く入院しないのだから、医療保険は不要、貯蓄でまかなうべきと言うのです。

数日程度の入院であればたしかに医療保険は不要でしょう。しかし、本当に医療保険が必要になるのは、大きな病気をしたときです。

たとえば脳梗塞の場合、脳の状態が落ち着き血圧が安定するまで1ヶ月程度は入院となります。障害があればリハビリも含めもっと長期になります。

うつ病の場合は数ヶ月の入院となるのはめずらしくありません。

深刻な病気になると今でも長期の入院となります。決してどんな病気でも短期で退院するわけではないのです。医療保険はある程度は必要ということがご理解いただけたかと思います。

ではその医療保険について、いくつかの注意点があるので解説していきます。

医療保険の落とし穴「インターバル」について

医療保険は仕組みをよく知らないと、せっかく入ったのに十分な給付金をもらえないことがあります。

昨今、医療保険で最も一般的なのは「60日型」の契約です。

たしかに60日以上の入院は現在多くはありません。60日でも十分かもと一瞬考えてしまいますが、実はこれには落とし穴があるのです。

それが「インターバル」という問題です。

医療保険のインターバルとは、一回の入院が終わってから次の入院まで、間隔を開けなければ入院日数の限度がリセットされないという仕組みです。

インターバルは保険会社によっては、180日、90日と異なっています。

インターバル期間に再入院してしまうと、前回の入院日数と合算されてしまうので、たとえ60日以内の入院でも、満額の給付金がおりないということになります。

下の図をご覧ください。

出典:公益財団法人 生命保険文化センター

前回の入院と、今回の入院が、継続した1回の入院として見なされるかどうかがポイントです。

もしこんな病気になったら、60日限度では入院費を払えない

具体的な例を見てみましょう。

医療保険はこのような条件だとします。

入院日数の上限は60日、インターバル180日 入院日額5,000円

もし脳梗塞で30日入院したとします。退院したところ、翌月に再度脳梗塞を再発しました。再発時の病状が重く、左半身の麻痺が出てしまっています。

急性期病院で30日過ごし、症状が落ち着いてから今度は回復期病院に転院しリハビリに励むとします。リハビリ入院を60日とします。

合計90日の入院ですが、2度目の入院は何日分の給付金が降りるでしょうか。

答えは・・・30日です。

60日分は保険がおりません。5,000円×60日=30万円がもらえないということです。

これがインターバルという仕組みです。

インターバル期間に再入院することを考えたら、なるべく入院日数限度が長い保険の方が便利です。

どんな医療保険に加入しておくべきか?備えるべきポイント

医療保険で備えておくべきポイントをご紹介します。

理想的な入院日数は?

理想的な入院日数の限度は120日です。

保険会社によっては730日型(2年)もあります。これは2年間入院することを想定するのではなく、2年間で短期間に何回も再入院することを想定しています。一度は検討すべきでしょう。

また、三大疾病(がん、脳血管疾患、心疾患)などの場合に入院日数が無制限になる特約もあります。(保険会社によって異なる)

リハビリ入院を想定してなるべく長くしておきましょう。

理想の入院日額は?

入院日額とは、入院1日当あたりに受け取れる給付金のことです。

先述した通り、

1日あたり15,000円、もしくは10,000円+入院一時金10万円以上

が理想です。

個室を利用することを前提として保険を設計しましょう。

生活費や住宅ローン返済

入院すると入院費用の支払いだけに意識が向きますが、入院が長引くと勤務先からの収入が減少する危険があることにも注意が必要です。

長期で休職すると傷病手当金は1年半支給されますが、給料の60%と少なくなります。

休職がそれ以上になると、無収入に。

そのため、入院中と入院後の療養期間に十分な収入を確保するためにも、何らかの備えをしておく必要があります。

自費リハビリ

健康保険の適用でのリハビリは次のように上限日数が決められています。

リハビリ区分標準的算定日数主な対象疾患例
脳血管疾患等リハビリ180日脳梗塞、脳出血、高次脳機能障害など
運動器リハビリ150日骨折、人工関節置換術後、変形性関節症など
心大血管疾患リハビリ150日心筋梗塞、心不全、冠動脈バイパス術後など
廃用症候群リハビリ120日長期安静による機能低下など
呼吸器疾患リハビリ90日COPD、肺炎、肺切除後など

これを超えた場合は、自己負担となります。いわゆる自費リハビリが必要になるのです。

リハビリによって、脳出血の場合の麻痺も改善される可能性が大きいため、保険適用期間が過ぎても、自費で十分なリハビリ期間を確保したいものです。そのための費用も考えておくべきです。

自由診療の費用

リハビリをしても、少し障害が残った場合、先進的な医療を受けたいと考えると思います。

最近は再生医療が進歩し、重い障害も緩和できる可能性が大いにあります。

しかし問題はその費用。

10割負担の自由診療となるため、数百万円~1,000万円という高額なものになります。実施している病院は全国で限られるため、交通費や入院費、家族のホテル代なども必要です。

これは医療保険の先進医療特約や患者申出療養特約が使えないことも多いのです。

この費用をどのように工面するのか、プロのアドバイスが必要です。

「医療保険は不要」と言っているのは健康な人だけ

医療保険は不要、などと言っている人達は、おそらく自分や家族が大病をしたことがない人かもしれません。

高額療養費制度を使っても支払い切れないケースが多々あるのが現実です。抗がん剤治療などでは、毎月数万円の支出があるうえに体調が悪く、不安だけが募るでしょう。

ましてや国が高額療養費制度を改悪しようと目論んでいるのは、ご存じの方もいるかもしれません。

預貯金でまかなうと言っても、その貯えがない家も多いのが現実。大病をすると数百万円の支出があります。その数百万円が子供の大学資金だったとしたらどうなるでしょうか。

一度しっかりと医療保険のあり方を考えてみましょう。