夫婦別姓が国の制度として認められていない現在、事実婚を選択している人も多くいます。
そこで問題になるのが住宅ローンのこと。事実婚ではぺアローンや連帯債務で住宅ローンを借りることが難しく、住宅取得にハードルがあります。
事実婚の住宅ローンについて、解説していきます。
「収入合算」「ぺアローン」の背景
昨今、住宅価格は高騰しています。
特に分譲マンションは東京都内を中心に著しい高騰を見せていて、落ち着く様子がありません。戸建て住宅も同様に価格が上昇しています。
そうなると困るのは住宅ローンが借りられるかということ。
住宅ローンは税込み年収を元に審査をします。税込み年収の6~7倍程度であれば審査に通過する可能性があります。
例えば年収650万円であれば、3,900万円~4,550万円の融資が受けられる可能性があります。
ところが4,550万円で新築の注文住宅が買えるのは、地価の安い地方都市のさらにごく一部だけでしょう。2025年現在、戸建ての新築注文住宅を購入しようとすると、土地込みで6,000万円~1億円を見込む必要があります。
そこで「収入合算」「ぺアローン」と呼ばれる、「夫婦が共同で住宅ローンを借りる」という手段を取るのが一般的です。
夫650万円、妻550万円、世帯年収1,200万円の場合、借りられる住宅ローンは7,200万円~9,600万円まで増えます。これであれば、立地のいい場所のタワーマンションや、大きな戸建て住宅も選択肢に入ります。
かつての日本社会では住宅価格が安かったこともあり、夫だけが借金をして家を購入するのが一般的でした。ジェンダーロールにおいても、男は家を買って一人前という感覚が根強くあったと思います。地方に行くと今もまれに見かけることがあります。
しかし実際には返済は夫婦が力を合わせて行うため、ぺアローンを借りて、家の名義も共有にするのがフェアであるという考え方が広まっています。
ところがここで問題になるのは、「法律上の夫婦、もしくは証明書を発行された同性パートナーでなければ、ぺアローンは難しい」という現実です。
事実婚カップルに住宅ローンを貸してくれる金融機関は少数
夫婦別姓という言葉を聞くことがあると思います。
結婚したら夫婦どちらかの姓に変えなければならないというのが、今の日本の制度です。
姓を変えるのは自分のアイデンティティの問題であると感じる人が、夫婦別姓を望んでいるのです。国会の審議にも入っていますが、夫婦別姓は社会保障制度そのものを大きく見直す必要があるため、成立するのはまだ先になるかもしれません。
法律上の夫婦でなければ、大半の金融機関ではぺアローンも収入合算も認めてくれません。一部、同性パートナーは自治体で証明書が発行されていれば婚姻関係がなくともぺアローンは借りられる金融機関がありますが、事実婚はまだ不可能に近いです。
金融機関からすると、事実婚の2人は「他人同士」でしかないからです。もちろん同居もしているし子供もいて、実態上の夫婦関係ではあるはずですが、法的な根拠がないため金融機関ではあくまでも「他人」という扱いなのです。
フラット35だけが借入可能
そんな中、フラット35だけが事実婚カップルにも融資可能です。
収入合算での融資の条件に「配偶者(婚約者または内縁関係にある方を含みます)」と記載されていて、多くの事実婚カップルが融資を受けています。
フラット35は金利が高いと偏見を持つ人が多いのですが、メリットも多い住宅ローンです。
- 審査が比較的緩い
- パート、アルバイトでも融資可能
- 金利は全期間固定
- 売却時に有利になることも
- 全国の金融機関で取り扱っている
なぜ、経済環境が不確実性を増している現代で、フラット35を選択する人が多いのです。
事実婚カップルであれば、フラット35一択なのが2025年現在の状態です。
婚姻関係はなぜ優遇されるのか?
事実婚がぶち当たる困難は、住宅ローンだけではありません。日本社会では夫婦という扱いを受けづらく、次のような場面で不利益が生まれます。
- 病院での入院時に保証人になれない
- 入院時に面会できない
- 病院においてキーパーソンに指定できない
- 子供の親権者はどちらか一人だけ
- 税制上の配偶者控除がない
- どちらかの扶養に入れない
- 法定相続人になれない
などが挙げられます。
しかし、逆に考えると、なぜ法的な婚姻関係があるとこれらが認められるのかという疑問があります。
婚姻関係は法律上の義務を負っている
日本は自由な社会であるため、つい忘れがちですが、婚姻関係とは法律上で定められた関係です。
婚姻関係は法的な義務を負っています。
- 同居義務
- 協力義務
- 扶助義務
- 貞操義務
これらの義務を果たさない場合、法律的に慰謝料の請求が認められているのです。
一方で、離婚するときも必ずしも自由意思で離婚が成立するわけでもありません。これらの義務を果たしていないと裁判所が認めてはじめて離婚手続きが受理されるわけです。婚姻費用、慰謝料、財産分与など、お金の負担も大きく、離婚は経済的・心理的に重い負担となります。
金融機関はこの義務を、返済の安全性の担保と捉えるのです。
社会保障制度においても、この義務と引き換えに同時に恩恵を受ける権利があるという考え方です。
実際のところ、法的な婚姻関係でも、事実婚でも、同性パートナーでも、別れてしまうカップルの比率に大きな違いはないと想像します。2022年における離婚率は全国平均で35.47%でした。沖縄県は47%を超えています。
婚姻、事実婚、同性パートナー、どれであってもペアローンを借りて別れてしまうと経済的に困難を極めるのは違いありません。事実婚だからといって、住宅ローンを借りられないのは論理的整合性に欠けているのではと筆者は感じます。
婚姻関係が負う義務は、夫婦別姓を拒む理由にはなりにくいのではないでしょうか。
なぜフラット35だけが事実婚に融資できるのか
ではなぜ、現時点でもフラット35だけが事実婚カップルに融資するのでしょうか。
それはフラット35のデフォルトリスク(債務者が自己破産し返済できなくなるリスク)は、金融機関ではなく投資家が負っているからです。
フラット35は住宅ローンではありますが、証券化ローンとも呼ばれます。

投資家にとっては投資対象なのです。デフォルト率が低い安全な投資先として人気があります。住宅金融支援機構が住宅ローンを債権化(MBS)し、投資家から代金を受け取ります。そして債務者が返済した際の金利を投資家に分配しています。
そのため銀行などが避けるような案件を多く引き受けることができる傾向があります。
現実的な選択として
夫婦別姓の制度を国に求めることとは別に、それを待っていては住宅の取得ができなくなります。
現実的には、フラット35を選択し住宅を購入、その後民間金融機関が融資ができるようになってから「借換」をする方がいいでしょう。