「日本の貧困率は約6人に1人」―この事実に驚く人は少なくないでしょう。しかし、この数字だけでは捉えきれない、より深刻で根深い問題が「家庭内貧困」です。
一見、普通の家庭に見えても、その内側では経済的な困窮や支配が渦巻いていることがあります。この記事では、「家庭内貧困」の2つの側面、その深刻な影響、そして解決のために私たちが利用できる支援について、分かりやすく解説します。
「家庭内貧困」には2つの側面がある
家庭内貧困は、単純に「世帯収入が低いこと」だけを指すのではありません。大きく分けて2つのタイプが存在します。
1. 世帯収入全体が低い「相対的貧困」
これは一般的にイメージされる貧困の形です。世帯の年間所得が、国が定める基準(127万円)を下回っている状態を指します。
厚生労働省の調査では、日本全体の相対的貧困率は15.4%ですが、特に、ひとり親世帯では44.5%と、極めて高い水準にあります。
その背景には、以下のような社会構造的な問題が潜んでいます。
- 非正規雇用の拡大 安定した収入とキャリア形成が難しいパートや契約社員で働く人が増え、世帯収入が不安定になりがちです。
- ひとり親世帯の困難: 離婚や死別により、一人で子育てと生計を担う中で、時間的にも経済的にも困窮しやすい状況があります。
- 病気や障害による負担: 家族の誰かが病気や障害を抱えると、医療費の負担や、介護による離職・転職で収入が減少し、貧困に陥るリスクが高まります。
この状態は、特に子どもの将来に大きな影響を及ぼし、「貧困の連鎖」を生む温床となっています。
2. 世帯収入はあるのに困窮する「見えない貧困」
こちらがより発見されにくい、もう一つの家庭内貧困です。
世帯全体の収入は貧困線を上回っているにもかかわらず、家庭内の力関係によって、特定の家族員が貧困状態に置かれることを指します。
これは「経済的DV(ドメスティック・バイオレンス)」の一形態とも言え、多くの場合、妻や子どもが被害者となります。
- 夫が家計を完全に支配し、妻に食費など必要最低限の生活費しか渡さない。
- 妻自身のパート収入などをすべて取り上げ、自由になるお金を一切与えない。
- 「誰のおかげで生活できているんだ」といった言葉で精神的に支配し、お金の要求をさせない。
- 子どもの進学や習い事など、将来に関わる費用を出し渋る。
このような状況は外部から極めて見えにくく、当事者も「夫婦間の問題だから」「私が我慢すればいい」と、声を上げられないケースが少なくありません。経済的自由を奪われることは、精神的な孤立と無力感を生み、自力でその状況から抜け出すことを著しく困難にします。
家庭内貧困がもたらす深刻な影響
家庭内貧困は、個人の尊厳を傷つけるだけでなく、次世代や社会全体にも負の連鎖をもたらします。
- 子どもへの影響 教育や体験の機会が大きく制限されます。塾に通えない、参考書が買えないといった学習格差だけでなく、友人との交流や部活動への参加も諦めざるを得ないことがあります。これは、子どもの自己肯定感を著しく下げ、将来の選択肢を狭める「貧困の連鎖」に直結します。
- 大人(特に女性)への影響: 経済的DVに苦しむ当事者は、常に精神的なストレスに晒され、うつ病などを発症するリスクも高まります。自立したくても経済的な基盤がないため、暴力的な環境から抜け出せずに心身をすり減らしていくという悪循環に陥ります。
- 社会全体への影響 子どもたちの可能性が閉ざされることは、将来の社会を担う人材の損失を意味します。また、貧困を起因とする健康問題や生活困窮者の増加は、結果として医療費や社会保障費の増大につながり、社会全体の負担となります。
ひとりで抱え込まないで。利用できる相談窓口
もし、あなたやあなたの周りの人が家庭内貧困で苦しんでいるなら、決して一人で抱え込まないでください。それはあなたのせいではありません。専門の知識を持つ機関に相談することが、解決への大きな一歩です。
- 自立相談支援機関(全国の市町村) 生活全般の困りごとについて相談できる公的な窓口です。専門の支援員が一緒に課題を整理し、必要なサービスにつないでくれます。
- 配偶者暴力相談支援センター(DV相談プラス) 経済的DVを含む、あらゆる配偶者からの暴力に関する相談ができます。電話やメールで24時間相談可能で、必要に応じて一時保護や自立支援も行います。
- 法テラス(日本司法支援センター) 経済的な問題が絡む場合、法的な解決が必要になることもあります。収入などの条件を満たせば、無料で法律相談を受けられる制度があります。
- NPO法人などの民間支援団体 フードバンク(食料支援)や、子どもの学習支援、居場所づくりなど、地域に根差した多様な支援を行っている団体が全国にあります。
明日は我が身。社会全体での支援が大切
家庭内貧困は、単なるお金の問題ではなく、人々の尊厳や将来の可能性を奪う深刻な人権問題です。特に「見えない貧困」は、社会の無関心の中で多くの人々を苦しめています。
立派な家に住んでいるけれど、夕飯を作る食材を買いに行くお金がない母子さえいます。高級な自動車に乗っていても、ガソリンを入れられない人もいます。家族の力関係によってお金が自由にならないという、DVから来る見えない貧困のせいです。
この問題の解決には、まず私たちがその存在を知り、関心を持つことが不可欠です。家庭内貧困に気づいたら、自分ができる範囲でいいので声掛けをするなどしてもいいはずです。明らかな虐待、DVと感じたら、警察などへの相談も必要かもしれません。
「家庭内の問題」と切り捨てず、社会全体で支える仕組みを強化していく必要があります。