人生で最も大きな買い物の一つである、マイホーム。理想の家づくりを実現するために、複数のハウスメーカーと打ち合わせを重ねることはごく一般的です。
しかし、多くの人が頭を悩ませるのが住宅営業マンへの「断り方」です。
家は一軒しか買えないので、複数社を検討しても1人の営業マン以外は全員お断りすることになります。一社だけに絞ったら他を断ることになりますが、ここに多くの人がストレスを感じてしまうのです。
この記事では、住宅購入の現場で長年FP相談を行ってきた筆者が、上手な断り方を解説していきます。
住宅購入のストレスは、「お断り」
多くの買い物の中でもっとも断りにストレスを感じるのが、住宅購入です。
「熱心に対応してくれた営業担当者に申し訳ない」「何度も打ち合わせをしたのに、今さら断れない…」そんな罪悪感や気まずさから、なかなか断りの連絡を入れられずにいる方も多いと思います。
中には連絡もしないで音信不通になる人も・・・
20年間、住宅営業の現場を見てきた筆者ですが、お客様にとっても営業マンにとっても最もストレスを感じる場面が、「お断り」です。
この場面でお互いに気まずくなり、険悪な雰囲気になることもめずらしくありません。地方都市の場合、営業マンも近隣で生活していて日常でまた関わることもありえます。訳アリの人間関係は持たない方がいいに決まっています。
お客様からの断りに感情を揺さぶられる住宅営業マン
断られるとき、住宅営業マンはどんな心理なのでしょうか。
実は・・・住宅営業マンは商談していた見込み客からお断りの連絡を受けた時、激しく感情を揺さぶられてしまいます。経験の浅い若い営業マンの場合、事務所で泣いてしまう人さえいます。
住宅は高額商品です。営業マンはお客様が考えているほど多くの商談があるわけではありません。3件も商談を抱えていたら超優秀とさえ言われます。多くの営業マンにとって、やっと発生した貴重な1件の商談なのです。
上司に圧をかけられながらやっとたどり着いた商談に、営業マンとしての運命をかけているといっても過言ではありません。筆者が現場で見ていると、お客様の言動の、たった一つの単語にさえ一喜一憂するほどです(笑)
お客様が、「勉強になりました」と営業マンに言おうものなら、「あれってお断りっていう意味???」と神経質に反応し悩むほどです。
この商談を失敗したら、次の商談はもうないよ・・・そう考えて怯えているのが現実です。これが自動車販売や保険販売であれば見込み客が途切れることはありません。しかし住宅営業の商談の少なさは、販売という職種の中では群を抜いているのです。
それゆえに、営業マンは本気で商談しています。お客様としては営業マンからの期待感に圧を感じ、断りにくくなるのも当然です。
あとで苦労する!やってはいけない商談のしかた
とはいえ、家を買うのは自分です。
営業マンの心理など、お客様には関係ありません。自分が望む家を買えばいいのです。
実のところ、営業マンにお断りするのが難しい、と感じてしまう場合、実はお客様側としても営業マンへの接し方にミスがあることが多いのが現状です。
つまり人間関係を構築することに失敗しているのです。
ハウスメーカーでこんなふるまいをしていませんか?悪い例をいくつか挙げてみます。
営業マンに他社との商談状況を伝えていない
筆者はFPとして、「いま検討しているハウスメーカーを教えてください」と質問すると、多くの方が教えてくれます。
しかしFPには開示できても、営業マンに対しては内緒にしてしまうケースが非常に多く見られるのです。なぜ開示しないのかと、お客様側として「競合他社を明かすと見積りなどで誤魔化されるのではないか」と考えてしまうからのようです。
つまり、競合他社と価格を合わせてしまい、安くしてくれなくなるのでは、と考えているのです。
この考え方はお客様に不利益しかありません。注文住宅の場合、同じ建物は存在しないため相見積もりのようなことをしても意味はないのです。また、最初から営業マンに不信感を抱いてまともな人間関係が醸成できるわけがありません。
検討中の他社があることを伝えないばかりに、営業マンがお客様のニーズを掴みにくくなります。雲を掴むような、謎かけのような、まるで噛み合わない商談を重ねていると、お客様としても時間の無駄になるはずです。
これではお断りするときにはすっかり険悪な状態になります。
「競合している他社があるなら最初から言ってください」と、断った時に営業マンが不満を口にすることさえあります。
一社に設計の申し込みをしたのに、他社と継続している
ハウスメーカーの多くは「申し込み」というプロセスがあります。
10万円~100万円程度の申込金を入れて、具体的な設計に移行する区切りのことです。
この申込金はハウスメーカーに対して「本気で検討を始めますよ」という意思表示です。
ベテランの営業マンであれば、「申し込みをする時には他社は全てお断りしてください」とはっきり伝えています。
しかし申し込みをした後でも、まだ他社との打ち合わせを継続している方もごくまれにいます。本人は相見積もりのつもりのようですが、これによって営業マンとの信頼関係は完全に崩壊してしまいます。
他社への「浮気」がバレたとき、営業マンは一気に冷めてしまうのです。他社に決めて断りを正式に入れないと、申込金が戻ってきません。その断りが非常に辛いものになってしまいます。
検討している複数メーカーに優先順位をつけていない
たとえば5社のハウスメーカーを検討しているとしても、5社のうちで優先順位をつけていない方も多く見られます。
「どれも優劣つけがたい・・・」と言うのですが、これは自分にとって後で苦しむだけの悪手です。
ハウスメーカーで実際に話を聞いたり展示場を見学したりしてから、優先順位をすぐに付けていくべきです。早い段階で優先順位が低いハウスメーカーから断りをいれていきましょう。早い段階であれば、険悪にならずに済みます。お客様もストレスも感じません。
そして、二社程度に絞ったら、営業マンにその旨を伝えてください。
「このどちらかにする予定です。いま悩んでいるのは〇〇の部分。ここを解決できたメーカーで契約する予定です。〇月〇日までには結論を出します」
このようにはっきりと意思表示をすると、商談は非常にソリッドなものになります。要望がはっきり伝わり、トラブルも起きなくなります。
そしてお断りするときにも論理的整合性がとれ、営業マンも納得できます。ストレスのない幕引きになるのです。
ケジメのある姿勢で、毅然とジャッジすることが大切
これらはどれも実際に見かける行動です。
前述したように、早い段階でふたつに絞る、ふたつに絞ったらその理由と状況を営業マンに伝える、どのような状態になったら契約を決断するのか営業マンに伝える。
これが商談では誠実な態度であり、お客様自身が自分の思い通りの買い物ができる秘訣でもあります。
このようにケジメのあるこのような姿勢を取っていると、営業マンに断りを入れるときに抵抗なく振舞うことができます。営業マンにとってもショックは最低限に済みます。むしろ、ちゃんとしたお客様だったな、勉強になったなと感謝もされます。
一社だけに絞っておくのが一番ラクです
特に注文住宅は、お客様と営業マン、設計士、インテリアコーディネーター、FP、金融機関、現場監督、職人、事務スタッフなど関わる全ての人の共同作業です。
人間関係を良好に醸成することで、お客様自身が得をします。
お断りすることを想定せず、最初から一社に絞って交渉するのが一番ラクかもしれません。そのうえで、「この会社なんか嫌だな」「イメージしていたものと違うな」「不誠実だな」と思ったら、そこでお断りすればストレスはありません。
複数を同時進行で検討するのがストレスの元なので、一社ずつジャッジしながら進めていくことを筆者はお勧めしています。