家づくりを考える際、多くの人が当たり前のように「寝室は2階」と想定するのではないでしょうか。
実際に、日本の多くの戸建て住宅では、1階にLDKや水回りといったパブリックスペースを、2階に主寝室や子ども部屋といったプライベートスペースを配置する間取りが主流です。
しかし、そこに潜むリスクや、将来的なデメリットについて深く考えたことはあるでしょうか?また、なぜ多くの家庭で2階に寝室が設けられるのでしょうか。
この記事では、住宅専門ファイナンシャルプランナーが、戸建てで寝室を2階にするリスクと、それでも2階にせざるを得ない理由について、掘り下げて解説します。
これからの家づくりや、将来の暮らし方を見据える上で、ぜひ参考にしてください。
2階寝室が抱える潜在的なリスク
当たり前のように選ばれる2階の寝室ですが、日々の暮らしや万が一の事態において、いくつかのリスクを抱えています。
簡単に解説していきます。
緊急時のリスク
大地震発生時
大地震が発生したとき、あまりにもの強い揺れで建物が大きな音で軋むと、絶望的な恐怖を感じるはずです。建物の外に出た方がいいのではないかととっさに考えるでしょう。
しかし二階の寝室にいた場合、スムーズに階段を降りられるとは限りません。壁や天井が崩落して階段をふさいでしまうと、転倒の恐れがあります。小さな子供達も二階で寝ているので、避難はさらに遅れます。
火災発生時
火災において最も恐ろしいのは、炎そのものよりも煙です。煙は熱によって上昇する性質があるため、1階で発生した火災の煙は、階段を通じて急速に2階へ充満します。
就寝中に火災に気づくのが遅れた場合、煙に巻かれて避難が困難になる危険性が高まります。特に深夜の火災では、視界が悪くパニックに陥りやすいため、2階からの避難は1階に比べて時間的猶予が短くなります。
断熱材に発泡ウレタンを使用している場合は、急激な延焼(フラッシュオーバー)の発生やシアン化水素の充満により、逃げ遅れることで命を落とす可能性が高くなります。
脳卒中・脳梗塞、心筋梗塞などの急病時
誰にでも起こりうる身体の急変。二階の寝室で就寝中、家族の異常に気付き救急車を呼ぶとします。
救急隊が到着しても二階から運び出すには、時間がかかってしまいます。救急隊は訓練されたプロですから、それでもスムーズに一階まで降ろしてくれますが、一秒を競うような病状のときには、それだけで命取りになります。
カナダでの調査では、心停止した場合、居住階が高くなるほど生存率が低くなるというデータがあります。たった2階で大げさだと思うかもしれません。しかし狭小住宅で階段が狭い場合や、住民が重度の肥満である場合は、さらに時間がかかり救命の障害になります。
ライフステージの変化に対応できるか
家を建てたときには若くて健康でも、年齢を重ねれば誰しも身体機能は低下します。
特に足腰が弱ってくると、毎日何度も階段を上り下りするのは大きな負担になります。寝室とLDKが別の階にあると、日中の活動と就寝のたびに移動が必要となり、生活動線が分断されがちです。
介護が必要になった場合、介助者が本人を支えながら階段を移動するのは非常に困難であり、危険も伴います。ホームエレベーターを後付けする方法もありますが、数百万円単位の費用がかかり、設置スペースの確保も必要です。
また、階段の昇り降りが不安になるのは高齢になってからだけではありません。脳卒中・脳梗塞、事故での大怪我などがあれば、階段は避けた方がいいこともあります。
また、妊娠中や、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いての移動は、想像以上にリスクがあります。子どもが歩き始めるようになると、今度は階段からの転落事故に気を配らなければなりません。夜泣きのたびに1階のリビングと2階の寝室を往復するのも、心身ともに大きな負担となるでしょう。
それでも寝室を2階にする「しかない」事情
多くのリスクがあるにもかかわらず、なぜ2階寝室の間取りが主流なのでしょうか。そこには、日本の住宅事情や暮らしの価値観が大きく影響しています。
土地の制約と間取りの事情
都市部やその近郊では、広い土地を確保することが難しく、必然的に狭小地に家を建てるケースが多くなります。限られた敷地面積で必要な居住スペースを確保するためには、建物を2階建て、あるいは3階建てにするしかありません。
その際、家族が集まり、来客を迎えるLDKや水回りを生活の中心である1階に配置すると、寝室は必然的に2階以上に配置されることになります。
筆者は青森県の田舎町で生まれ育ちましたが、かつては戸建て住宅の平均的なサイズは2025年現在のそれとくらべ、大きかった記憶があります。延床面積が40坪~50坪が最も標準的で、農家では60坪~70坪と、今となっては贅沢な広さです。寝室は一階にあることが多く、二階は子供部屋であることが多かったように思います。
親の寝室(主寝室)は一階、子供は二階と、プライバシーが保たれていたのです。
建築コストの問題
しかし現代では地方都市でも建物は狭小になっています。建材価格や人件費が高騰し、地価も上昇しているため、土地も建物も狭くなります。建築基準法が求める住宅性能もハイレベルになっています。建築コストの問題で大きな家が建てづらくなっているのです。
同じ延床面積であれば、平屋よりも2階建ての方が、基礎や屋根の面積が小さくなるため、建築コストを抑えられる傾向にあります。
土地の購入費用に加え、建物の建築コストも考慮すると、総予算内で希望の広さを実現するためには2階建てが現実的な選択肢となり、結果として寝室が2階に配置されることが多くるのです。
リスクを知り、未来を見据えた設計を
先述の通り、戸建ての寝室を2階にすることは、災害時や将来の生活において様々なリスクを伴います。しかし、土地の制約や建築コストといった現実的な問題を解決するための、合理的で有効な選択肢でもあります。
大切なのは、これらのリスクと事情の両方を正しく理解し、自分たちのライフプランや価値観に照らし合わせて判断することです。
いずれ二階に上がれなくなるかもしれない、という認識は持っておくべきです。その時にどうするのか、夫婦で話し合いを重ねましょう。建物を大きくし寝室を一階に設けるために、広い土地を探すのも一つの選択肢です。総コストを高くしてもいいのか、それとも郊外の土地を買いコストを抑えた方がいいのか、住宅専門のファイナンシャルプランナーに相談しながら決めていくことをお勧めします。