筆者は年間200世帯を超える家庭の、お金の課題について相談に乗っています。
その多くは住宅をこれから購入したいと考えている人達です。当然ながら大半のご家庭は経済状況は極めてクリーン。フリーローンなどの借金はなく、住宅ローンの審査も問題がありません。
その一方で、住宅ローンの審査がNGになってしまう家庭もあります。住宅ローンの審査の場合は、「減額回答(望む金額が借りられない)」ことは頻発しますが、「1円も貸せません」という回答もごくわずかに発生します。
なぜ借りられないのかというと、過去の信用情報に問題があるからに他なりません。借金の返済を滞ったことがあるということです。
もちろん、誰でもミスはあります。一度や二度くらい、引き落とし日の前に口座にお金を入れておくの忘れていたことはありえるでしょう。銀行もそれだけではNGにしません。NGになるということは、銀行が「この人、信用が全く無いな」と判断するほどの金融事故情報があるということです。
「以前、2回くらい支払いが遅れたんだよね」と本人は言いますが、実のところ、ほぼ毎月遅れていて、まだ返済していない分もある状態だった、なんてことは珍しくありません。お金のことを相談するはずのFPにさえ嘘をついてしまうのです・・・
NG回答が来てしまった方でも、数年間かけて信用情報を取り戻し、住宅ローンを借りられるようになった人も多くいます。そのプロセスで筆者は借金返済について正直な事情をお聞きし、アドバイスするようにしています。
そこで浮き彫りになるのが、夫もしくは妻が何らかの依存症に陥っている実態です・・・
借金を増やす原因となるのは主に、「ギャンブル依存症」「性依存症」そして「買い物依存症」です。
【実話】買い物依存症のAさんの様子

買い物依存症で苦しんだAさん(33歳男性)の事例について、本人の許可を得てご紹介します。
Aさんは一見真面目そうな会社員です。大学を卒業後、東北地方の地元に戻り、中小企業に就職。25歳のときに結婚し、妻と共働きで頑張って生活してきました。
ところが子供が生まれて1年ほど経った頃から、Aさんの自宅アパートにはスニーカーが溢れるようになりました。もともとファッションが好きなAさん。最初は奥さんも呆れつつも趣味だからと思い何も指摘しませんでした。
やがて、部屋の中には70箱以上もスニーカーが積まれるように。さすがにやりすぎじゃないの?と奥さんはAさんにやんわりと注意しましたが、本人も気にしているらしく「フリマアプリで売るから大丈夫、高く売れるよ」と答えていました。
奥さんがAさんの異常に気付くのはそこから数か月後のこと。スニーカーの箱が減っていると思っていましたが、実はAさんがトランクルームを借りていることが分かったのです。自宅から離れた場所にあるトランクルームの料金が滞納しているらしく、督促の手紙が届いたのです。
問い詰めると、そこには約300足のスニーカーがあることが分かりました。奥さんがトランクルームを確認すると、驚いたことにオンラインで購入したのか梱包を解いていない荷物も多くあること。店舗で購入したものも中身を取り出した形跡がありません。海外から届いたらしき荷物も多くあります。全てスニーカーです。
「なにこれ・・・どうしたの?」と恐怖を感じる奥さん。
実はAさん、自分にも歯止めがかからないほどの買い物依存症に陥っていたのです。そしてクレジットカードは7枚持っているようでしたが、高額の決済を重ねて返済は火の車。やりくりが破綻するのはそう遠くではありません。
そこまでの買い物依存症に陥った原因は、この記事の最後に書きます。
それ、買い物好きではなくて、買い物依存症かも
「買うのをやめたいのに、やめられない」「クレジットカードの支払いが怖くて、明細を見られない」「買ったものが部屋に溢れているのに、またネットでポチってしまう」
もしこのようなことで悩んでいるなら、それは単なる「浪費家」や「意志の弱さ」のせいではないかもしれません。その抑えきれない購買衝動は、「買い物依存症」という治療が必要な病気のサインである可能性があります。
買い物依存症とは?買い物好きとの違い
買い物依存症(医学的には強迫的購買やオニオマニアと呼ばれる)は、精神疾患の一つであり、「行動嗜癖(行動依存)」に分類されます。
アルコール依存症の人がお酒に、ギャンブル依存症の人がギャンブルにのめり込むのと同じように、買い物依存症の人は「買う」という行為そのものに依存しています。
最大の違いは、その目的にあります。
- 買い物好き: 買ったものを生活で活用したり、コレクションを楽しんだり、「買ったモノ」に価値を見出す。多くはここがスタートです。
- 買い物依存症: 不安やストレスから逃れるため、一時的な高揚感を得るためなど、「買う行為」自体が目的。買ったものを使わずに放置したり、隠したりすることも多い。買ったモノに興味を持たなくなるのが特徴です。
買い物によって経済的・社会的に破綻し、深刻な自己嫌悪に陥ってもなお行動をコントロールできない、という点が「病気」としての特徴です。
筆者は20代の頃に輸入車ディーラーで営業マンをしていましたが、買い物依存症を発症して高級車を買い続ける方を多く見ました。全員、自動車に興味はないのです。自動車を買う瞬間の高揚感に依存していて、納車された瞬間から次の自動車を探していました。
なぜやめられない?買い物依存症の主な3つの原因【脳・心理・社会】
買い物依存症に陥る原因は一つではありません。脳の仕組み、心理状態、そして社会環境が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
原因1:脳の報酬系(ドーパミン)の誤作動
私たちの脳は、何か嬉しいことや快いことを体験すると、ドーパミンという快楽物質を放出する「報酬系」という回路が働きます。
買い物依存症の人は、この報酬系が買い物によって過剰に刺激されています。
買い物をした瞬間の高揚感は、ドーパミンによるものです。しかし、脳がこの強い刺激に慣れてしまうと(耐性の形成)、同じ快感を得るためにより多くの、より高価な買い物が必要になります。これは薬物依存のメカニズムと酷似しており、自分の意志だけではコントロールが極めて困難になる理由です。
原因2:ストレスや低い自己肯定感などの心理的要因
心の奥にある問題が、買い物という行動で表面化しているケースは非常に多いようです。
- ストレスからの逃避: 仕事や家庭の強いストレスから一時的に逃れるための、最も手軽な手段が買い物になってしまう。
- 低い自己肯定感: 自分に自信が持てず、ブランド品や流行の服で自分を飾り、価値のある人間だと思おうとする。買っても自己肯定感は上がらないので繰り返してしまう。
- 孤独感・愛着障害: 満たされない心の穴を「モノ」で埋めようとする代償行為。
- 暇:元も子もありませんが、暇すぎて買い物で時間を埋める行為を繰り返す。リアル店舗で買い物することで寂しさを埋めようとする。
何らかの心の穴(劣等感や孤独感)を買い物で埋める体験をしたことから、買い物依存症に陥るケースが多いようです。
原因3:買い物を煽る現代の社会環境
私たちの周りには、買い物依存症を助長する環境が溢れています。
- キャッシュレス決済の普及: クレジットカードやスマホ決済は、現金のやり取りがないため、お金を使っている感覚が薄れ、金銭感覚が麻痺しやすくなります。
- ネット通販(ECサイト): 24時間いつでも、どこでも、ワンクリックで物が買える手軽さが、衝動買いのハードルを大きく下げています。
- SNSによる影響: Instagramに代表されるように他人のきらびやかな購入品投稿を見て、「自分も持たなければ」という焦燥感や劣等感を抱きやすい。
買い物依存症の治療法|病院は何科?具体的な治し方を解説
買い物依存症は意志の問題ではなく、治療によってのみ回復できる精神疾患です。
根性では治りません。専門機関に相談することが回復への最短ルートです。
病院は何科に行くべき?
まずは精神科または心療内科を受診しましょう。「買い物で悩んでいる」と正直に伝えることが大切です。うつ病や不安障害、ADHDなど他の精神疾患が併存していることも多いため、専門医による正確な診断が治療の第一歩となります。
主な治療法
治療は主に、精神療法(カウンセリング)と薬物療法を組み合わせて行われます。
- 認知行動療法(CBT): 現在の治療において最も主流とされるアプローチです。専門家との対話を通じて、自分が「どういう時に」「どういう気持ちで」買いに走りやすいのか、その思考パターン(認知)と行動の癖を客観的に把握します。その上で、ストレスを感じた時に買い物以外の健全な対処法(散歩、音楽を聴く、友人と話すなど)を身につけ、行動を変えていくトレーニングを行います。
- 薬物療法: 買い物依存症そのものに効く特効薬はありません。しかし、背景にあるうつ病や不安障害、衝動性をコントロールする目的で、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が処方されることがあります。これにより、衝動的な購買意欲が和らぐ効果が期待できます。
- 集団療法・自助グループへの参加: 同じ悩みを持つ仲間と体験を分かち合うことも非常に有効です。自助グループに参加することが近道ですが、アルコール依存症や薬物依存症と比べて、自助グループが多くないのが現状です。病院から紹介されるケースもあります。
家族や周りの人ができるサポートとは?
ご家族が買い物依存症かもしれない、と悩んでいる方もいるでしょう。その際の対応で大切なのは、本人を責めずに、病気として理解を示すことです。
- 感情的に責めない: 「また無駄遣いして!」と責めても、本人はさらに自己嫌悪を深め、隠れて買い物をするようになるだけです。冷静に、心配していることを伝えましょう。
- 専門家への相談を促す: 本人と一緒に病院や相談機関を探し、受診を優しく後押ししましょう。
- 金銭管理の協力: 本人の同意を得た上で、クレジットカードを預かったり、毎月のお金の流れを一緒に確認したりする環境調整も有効です。しかしそれを罰のように行うと逆効果になります。「こうなったら財布を預かるからね!」などと、懲罰としての家族管理をしたせいで、強盗や窃盗に至ったケースもあります。
買い物依存症は本人の性格のせいではありません。れっきとした精神疾患です。
完治までは時間がかかります。焦らず、責め立てず、ゆっくりと回復するしかありません。
夫Aさんが買い物依存に陥ったきっかけとは
事例の夫Aさんが極度の買い物依存症に陥ったきっかけはなんだったのでしょうか。
それは仕事のストレスと、家庭での孤独感でした。
Aさんは建設資材の営業マンです。上司との相性の悪さがストレスとなり、職場で上司との口論が発生することもしばしば。上司と、上司がえこひいきする同僚たちがAさんの悪口を吹聴していたり、あからさまに不当な人事考課をしたり・・・会社に行くのがもう嫌になっていたのです。
話し相手になってもらうはずの妻も、育児の疲れで夜は子供と一緒に寝てしまいます。Aさんももちろん家事を担っていますが、20時以降はひとりでお酒を飲みながらスマホを眺めている毎日・・・
そこで買い始めたのが限定モデルの人気スニーカーでした。抽選に当選したときの高揚感が刺激になったのです。手元に届いたスニーカーを眺めていると、仕事のストレスが吹っ飛びました。それだけに飽き足らず、夜にベッドに入ると1時間ほどオンラインショップを眺めるのが習慣に。
やがてスニーカーブランドやショップが仕掛ける限定モデル商法に踊らされるように・・・気が付けばクレジットカードは火の車になっていきました。
「スニーカーなんて本当は欲しくなかったんだと思う」とAさんは言います。
依存の矛先がアルコールや不倫だったら家庭が壊れていたかもしれません。買い物依存でまだよかったと思う反面、奥さんが目指していた新築住宅は当面無理そうです。
買い物依存からの家計の立て直しはFPに相談
買い物依存症をはじめ、あらゆる依存症は家計を壊していきます。
家計を立て直し、住宅を購入し、資産運用で老後資金を貯め、家族との生活を幸福に過ごすためには、一度FPに相談することをお勧めします。
ストレスを感じない方法で、緩やかに家計を回復される手順をアドバイスします。




























