相続問題について相談をする人を間違えてはいけない
「相続」という言葉を聞くと、漠然とした不安を感じる方は多いのではないでしょうか。「何から手をつければいいのか」「家族で揉めたりしないだろうか」「相続税はいくらかかるのか」などなど・・・
そんな時、日頃から付き合いのある保険営業マンから「無料で相続のご相談にのりますよ」と声をかけられたら、心強く感じるかもしれません。
「相続関係の資格も持っているらしいし、専門家なんだな」と名刺を見てそう思うかもしれませんね。
しかし、その親身な提案に、あなたと家族を将来大きなトラブルに巻き込む危険な罠が潜んでいるとしたら…?
実は、保険営業マンに限らず、弁護士資格を持たない自称「相続の専門家」が法律的な問題に踏み込んでアドバイスをすることは「非弁行為」として法律で固く禁じられています。
保険営業マンや相続コンサルタントが、相続の具体的な相談に乗ることは許されていません。そのことで「相談料」をもらったり、相談の見返りとしての「保険契約」をしたりしたら、完全な違法行為となってしまいます。
この記事では、大切な財産と家族の絆を守るために、私たちが知っておくべき「非弁行為」のリスクと、正しく相続の専門家と付き合う方法を徹底的に解説します。
そもそも、なぜ保険営業マンが相続の相談にのるの?
なぜ保険営業マンが相続の具体的な相談に乗ろうとするのでしょうか。
それはシンプルな理由で、「相続対策のための生命保険契約が欲しいから」です。
相続相談の着地点は自分の営業成績です。
しかし知っておきたいのは、保険営業マンが相続対策の生命保険を販売することは、決して怪しいことではないという点です。
生命保険は、相続対策において非常に役に立つ解決策です。
たとえば次のような時に生命保険が役に立ちます。
- 納税資金の確保 相続税は原則現金一括納付です。生命保険金は、まとまった現金を準備する手段になります。
- 遺産分割対策 不動産など分けにくい財産しかない場合、特定の相続人に保険金を渡すことで公平な分割(代償分割)を助けます。
- 非課税枠の活用 生命保険金には「500万円 × 法定相続人の数」という非課税枠があり、相続税の負担を軽減できます。
- 受取人固有の財産を作る 保険金は遺産分割協議の対象外となる「受取人固有の財産」です。特定の人に確実に財産を遺したい場合に活用できます。
このように、生命保険の機能を説明し、相続対策の一環として提案することは、保険営業マンの正当な業務です。
あくまでも保険営業マンは「保険のプロ」です。保険の内容の説明や契約手続きを行うプロです。それを行ってもいい保険募集人という資格に合格しています。
問題なのは、一線を越えて「法律のプロ」であるかのように振る舞い、顧客の相続問題について具体的に踏み込むことです。
「非弁行為」とは?
非弁行為とは、弁護士の資格を持たない人が、報酬を得る目的で、法律事件に関して鑑定、代理、和解などの法律事務を取り扱うことや、それらの周旋(紹介・あっせん)を職業として行うことを指します。これは弁護士法第72条で固く禁じられています。
弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
この法律の目的は、高度な専門知識と厳格な職業倫理を持つ弁護士に法律事務を限定することで、国民の権利を守ることにあります。
ところが、これを身勝手に解釈し、「報酬を得なければ法律事件に関する相談を行ってもいい」と考える業者がいるのです。実際には「保険契約」も相談の対価と見なされる可能性が高く、報酬は現金だけとは限りません。
相続に関する民間資格は多数ありますが、当然どれも弁護士ではありません。これらの民間資格は、あくまでも「相続についての一般的な知識を身につけました」というだけであって、その資格をもって「相続の具体的な相談に乗ってもいい」というわけではありません。
相続の具体的な相談に乗ってもいいのは、弁護士だけと覚えておいてください。
非弁行為と判断された場合、どうなるのか
非弁行為は犯罪行為です。重い罪に問われ、懲役刑もありえます。
刑事罰の可能性が高い
弁護士法第77条に基づき、「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」という重い刑事罰が科される可能性があります。相続案件に限らず、非弁行為で逮捕され懲役刑となったケースは少なくありません。
非弁行為を行った人物に相談を依頼した顧客側は罪に問われることはありませんが、弁護士ではない人間が立案した相続対策によって、実際の相続がめちゃくちゃになってしまう危険は常にあります。顧客にとってもリスクが高い行為なのです。
「非弁行為」7つのサイン
では、どのような言動、行動が違法となるのでしょうか。もしあなたの相続相談に乗った人物が以下のような言動を見せたら、注意が必要です。
サイン1:遺産分割の内容に具体的に踏み込んでくる
「私が一番もめない分け方を考えますよ。お兄さんには土地、弟さんには現金を、という形で進めましょう」
誰にどの財産を分けるかという遺産分割の具体的な内容は、相続人全員で決めるべき非常にデリケートな問題です。特定の相続人に肩入れしたり、保険営業マンが主導して分割案を作成したりする行為は、典型的な非弁行為です。
サイン2:特定の相続方法を断定的に勧めてくる
「お話を聞く限り、お父様の借金の方が多いようですから、あなたは絶対に相続放棄した方がいいです」
相続放棄や限定承認は、一度行うと撤回できない重大な法的手続きです。財産調査も不十分なまま、安易に特定の選択肢を断定的に勧めるのは、無責任かつ危険な越権行為です。
サイン3:遺産分割協議書や遺言書の作成を請け負う
「ご安心ください。法的に完璧な遺産分割協議書を私が作っておきますので、皆さんは署名と捺印をお願いします」
遺産分割協議書や遺言書は、法的な効力を持つ極めて重要な書類です。これらの法律文書の作成を代行する行為は、弁護士や司法書士、行政書士など、資格を持った専門家の独占業務であり、保険営業マンが行えば悪質極まりない違法行為となります。
サイン4:他の相続人との交渉を代行しようとする
「意見が合わないお兄様には、私からうまく話をして説得しておきますよ」
相続人間の交渉代理は、弁護士のみに許された行為です。保険営業マンが間に入ることで、かえって話がこじれ、感情的な対立が深まり、円満な相続が「争族」へと発展する危険があります。保険営業マンにそれを行う資格は全くないのです。
サイン5:弁護士や税理士は不要だと言う
「弁護士なんて頼んだら費用がかかるだけですよ。相続のことは私がいれば全部大丈夫ですから」
真に顧客のことを考える担当者であれば、自分の専門外の領域については、必ず弁護士や税理士といった他の専門家への相談を促すはずです。専門家を意図的に遠ざけようとするのは、自分のあやふやなアドバイスを正当化し知識不足を隠そうとしているか、あるいは都合のいい法律解釈を押し付けて自分の保険契約に繋げたいという思惑があると判断していいでしょう。
サイン6:「お任せください」と丸抱えしようとする
法律問題や税務問題も含めて、すべてを丸抱えするかのような「お任せください」は危険な兆候です。彼らが責任を取れる範囲は、あくまで保険商品に関する部分だけです。その範囲を越えた安請け合いは信用できませんし、その能力も知識もないはずです。
これもまた、自分の保険契約が欲しいがために、自分以外の人間に関与させないように言うのです。「弁護士や税理士が関与して、こんな保険を契約する必要はないと言われたら困る・・・」そういう思惑があるのです。
サイン7:相続の不安を煽り、保険契約をやたらと急がせる
「このままだと大変なことになりますよ」「今この保険に入っておかないと手遅れになります」「病気をしたらもう保険に入れません」などと過度に不安を煽り、冷静な判断をさせずに契約を迫る場合は要注意です。
あなたの不安に寄り添うのではなく、自分の営業成績を優先しているだけです。
弁護士よりも前に出てくる保険営業マンがいたら黄信号
保険営業マンの中には、弁護士や税理士とチームを組んでいるかのような説明をする人も大勢います。
実はこれも一部危険なケースがあります。それは、保険営業マンや相続コンサルタントが仕切り始めたときです。
保険営業マンが相続対策の相談を仕切りはじめ、弁護士や税理士を紹介しようとしていたら、「自分の保険契約に有利な説明をしてもらう条件で、士業の先生に仕事を紹介している」と解釈していいかもしれません。
「相続問題の交通整理をしています」というのがこの手の営業マン・コンサルタントの常套句です。
しかしその交通整理が法律で許されないのです。保険営業マンが相続案件で許されているのは保険の説明と申込手続き、そして教科書的な一般論の知識を披露するだけです。交通整理をする立場にありません。
相続の相談は、保険営業マンではなく、最初から弁護士事務所にすることがベストです。そのうえで保険の加入が必要だというアドバイスをもらったら、弁護士が紹介する保険営業マンに保険だけの説明を聞くべきでしょう。
順番が逆になると、途端に非弁行為が疑われてしまいます。
誠実な保険営業マンや、弁護士資格のないFPは、相続の具体的な内容に絶対に踏み込んできません。内容に踏み込まず、弁護士に予約を取るよう勧めるはずです。
非弁行為が疑われたら、勇気を持って「断る」選択を
もし、あなたが関わった人物に上記のようなサインが一つでも見られたら、どうすべきでしょうか。
答えは一つです。「勇気を持って、その人物から離れてください」。
「いつも親切にしてくれるし、断るのは申し訳ない…」と感じるかもしれません。しかし、考えてみてください。非医者が外科手術をしようとしているのを、あなたは黙って受け入れますか?非弁行為は、それと同じくらい無責任で危険な行為なのです。
その非弁護士のアドバイスに従った結果、
- 本来もらえたはずの財産を失う
- 払わなくてよかったはずの税金を払うことになる
- 法律の解釈を間違えていた
- 家族の関係に修復不可能な亀裂が入る
- 後から法的な無効を指摘され、トラブルに巻き込まれる
といった最悪の事態に陥る可能性があります。
あなたの、そして大切な家族の未来を守るために、少しでも「これは越権行為ではないか」と感じたら、きっぱりと相談を打ち切りましょう。
「色々とアドバイスをありがとうございます。ただ、法律に関わる重要なことですので、一度、専門家である弁護士の先生に正式に相談してみることにします。ですので、このお話は一旦ここまでで結構です。弁護士の紹介も不要です。」
このように、専門家に相談する意思を明確に伝えることで、相手もそれ以上踏み込みにくくなります。
相続対策の王道は「正しい専門家を、正しく頼る」こと
では、私たちは誰を頼ればいいのでしょうか。答えはシンプルです。それぞれの分野のプロフェッショナルに、その専門領域について相談することです。
- 保険のことは → 保険のプロ(保険営業マン)
- 保険を相続対策にどう活用すべきかは、弁護士の意見を尊重してください。そして生命保険の活用が必要だと弁護士が判断した場合、弁護士が紹介する保険営業マンと会いましょう。相続対策の保険プランについて、丁寧に説明してくれるはずです。
- 法律のことは → 法律のプロ(弁護士)
- 遺産分割の具体的な方法、遺言書の作成など、必ず弁護士に相談してください。実際に相続が発生したのちの親族間で揉めた場合にも弁護士に相談できます。
- 税金のことは → 税金のプロ(税理士)
- 相続税がいくらになるかのシミュレーションや相続対策、相続が発生した後の相続税申告書の作成・提出は、税理士の独占業務です。
相続対策は、これら専門家がそれぞれの知見を持ち寄り、連携して進めることで、初めて万全なものとなります。一人の担当者がすべてを解決できる、などということはあり得ないのです。
繰り返しますが、保険営業マンや相続コンサルタントが仕切り始めたら、たとえ弁護士を紹介すると言われても打ち切ることをおすすめします。
非弁行為が疑われたらどこに相談するか
保険営業マンや自称「相続コンサルタント」などの言動や勧誘に「もしかして非弁行為かもしれない」と疑問や不安を感じた場合、専門機関に相談することが非常に重要です。
非弁行為は、あなた自身が不利益を被るだけでなく、法律で禁止されている犯罪行為です。適切な場所に相談・通報することで、被害の拡大を防ぎ、問題の解決に繋がります。
主な相談先として、以下の2つが挙げられます。状況に応じて適切な窓口を選びましょう。
1. 弁護士会(最も専門的で直接的な窓口)
これが最もおすすめの相談先です。 全国の各都道府県には弁護士会が設置されており、その多くが非弁行為を取り締まるための専門の委員会(例:「非弁行為取締委員会」)や相談・情報提供窓口を設けています。
- 役割
- 非弁行為に関する情報の収集・調査
- 非弁行為者に対する警告や中止勧告
- 悪質な場合には、警察・検察への刑事告発
- 相談方法
- 電話相談: 各弁護士会のウェブサイトで窓口の電話番号を確認できます。
- 情報提供フォーム: ウェブサイト上に、非弁行為に関する情報提供専用のフォームが用意されていることが多いです。匿名での情報提供を受け付けている場合もあります。
- 郵送・FAX: 所定の書式をダウンロードし、事実関係を記載して送付します。
2. 警察(刑事事件として相談・告発)
非弁行為は、弁護士法に違反する犯罪行為(2年以下の懲役または300万円以下の罰金)です。
弁護士ではない人物に相談料金を支払った、相談の見返りとしての保険契約をした(相談料は保険契約で頂くので無料です、などと言った場合)など、相手が何らかの報酬を受け取っている場合は警察への告発をお勧めします。
- 相談方法
- 警察相談専用電話「#9110」 警察に相談したいことがある場合のための全国共通ダイヤルです。どこにかければよいか分からない場合に、まずはこちらに電話すれば、適切な窓口を案内してくれます。
- 最寄りの警察署 直接、警察署の窓口(生活安全課など)に出向いて相談することもできます。その際は、事前に電話をしてアポイントを取っておくとスムーズです。
多くは決して悪気があるわけではない
しかしながら、保険営業マンや相続コンサルタントは決して悪意があって相続相談に乗ろうとしているわけではありません。
筆者も保険会社に勤務していた時代、保険会社から相続についての研修を沢山受けました。相続対策の生命保険は大きな契約になることが多いのです。
その結果・・・やる気のある保険営業マンがさらに知識を磨き、プロフェッショナルな相続相談を行い、ハイレベルな解決策を立案したいと考えてしまうケースも多いのです。どこまでが許されている行為なのか、もはや曖昧になるのです。
そうして弁護士が独占業務として行っている分野に踏み込んでしまうことになります。YouTubeで知識を仕入れたからといって、薬の処方をしてもいいわけではないことと似ていますが、本人は気づかないのです。
もし親しい関係性の保険営業マンであるならば、「それ以上の相談は非弁行為になるから、ここまでにしようよ。弁護士に相談してくるね、ありがとう。保険が必要と言われたらその時は契約を頼むよ」とやんわりと話を終わらせてもいいでしょう。
相続の知識を勉強しているような熱心な営業マンですから、ハッと気づいてくれるはずです。友人を犯罪者にしないためにも、そっと断ることも友情でしょう。
























