なんだか意識高そうな投資用語「ドルコスト平均法」
ドルコスト平均法という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。投資用語としてなんだか意識が高そうで、ちょっと詳しそうな感じを醸しだせる便利な言葉です。
ドルコスト平均法は一般的に、「積み立て投資を安全に行う手法」として理解している人が多いのではないでしょうか。NISA(つみたて投資枠)の説明には必ずと言っていいほど登場してきます。
しかし、ドルコスト平均法=安全な投資の手法、というのは実は全くの誤解なのです。
この記事では、ドルコスト平均法という言葉が持つイメージの裏側を徹底的に深掘りします。
その起源から、特に日本でバブル崩壊後に普及した歴史的背景、そして多くの人が信じてやまない3つの大きな「誤解」まで解説していきます。
【基本のおさらい】ドルコスト平均法とは何か?
本題に入る前に、ドルコスト平均法の基本的な仕組みを再確認しておきましょう。
定時・定額購入のちから
ドルコスト平均法とは、*決まったタイミング(定時)」で「決まった金額(定額)」の金融商品(投資信託や株式など)を継続して購入していく投資手法です。
例えば、「毎月1日にAという投資信託を3万円分購入する」と決めたら、その時の基準価額(価格)が高いか安いかに関わらず、淡々と実行し続けます。毎月必ず3万円分を買い続けるのです。
当然、基準価額が安いときには沢山買えます。逆に基準価額が高い時には少ししか買えません。
なぜこのようなことをするのでしょうか。それは定額を買い続けることで購入単価を平準化することができるからです。
購入単価を平準化して何がいいのか?
この手法の最大のメリットは、価格変動リスクを平準化できる点にあるといわれているのですが、何がいいのでしょうか。
- 価格が高い時 同じ3万円でも、購入できる口数(量)は少なくなります。
- 価格が安い時 同じ3万円で、購入できる口数(量)は多くなります。
これを続けることで、理論上、平均購入単価が引き下げられる効果があるといえます。
一括投資でタイミングを誤り、最も価格が高い瞬間に全資産を投じてしまう「高値掴み」のリスクを、時間分散によって軽減できるとされています。
ドルコスト平均法の誕生と歴史的背景
この合理的に見える手法は、いつ、どのような経緯で生まれたのでしょうか。その起源は、世界的な金融危機にまで遡ります。
提唱者は「バリュー投資の父」ベンジャミン・グレアム
ドルコスト平均法(DCA)の概念を最初に体系的に示したのは、著名な投資家であり、「バリュー投資の父」と称されるベンジャミン・グレアムです。
彼は1949年に出版された不朽の名著『賢明なる投資家』の中で、定期的に一定額を投資し続けることの有効性を説きました。
大恐慌の教訓から生まれた「タイミングを計らない」投資哲学
グレアムがこの手法を考えた背景には、1929年から始まった世界大恐慌の強烈な経験があります。株価が10分の1近くまで暴落し、多くの投資家が市場から退場を余儀なくされました。
この歴史的な大暴落は、「市場の底や天井を正確に予測すること(マーケットタイミング)は、プロにとっても不可能に近い」という教訓を人々に刻みつけたのです。
ドルコスト平均法は、このマーケットタイミングというギャンブルから投資家を解放しました。「いつ買うか」ではなく「機械的に買い続けること」に焦点を当てた、画期的な投資哲学でした。
この考え方は、その後アメリカで個人が投資に参入する大きな原動力となりました。
日本におけるドルコスト平均法 – バブル崩壊後の「セールストーク」として
アメリカで生まれたこの手法が、日本で爆発的に普及したのは、実はそれほど昔の話ではありません。その背景には、日本の金融史における大きな転換点、バブル経済の崩壊がありました。
バブル崩壊と国民に刻まれた「投資アレルギー」
1990年代初頭、日本のバブル経済は崩壊。日経平均株価はピーク時の4分の1以下にまで下落し、多くの個人が株式投資で甚大な損失を被りました。
このトラウマは、国民の間に根深い「投資アレルギー」を植え付けました。「株や投資はギャンブルだ」「素人が手を出すものではない」という空気が、日本社会を覆い尽くしたのです。これはいまも日本人のDNAに刻まれていると言ってもいいほどです。
一方で、金融機関(銀行や証券会社)は富裕層を相手にした従来のビジネスモデルから、変更を余儀なくされました。手数料収入が見込める投資信託を会社員など一般庶民に販売する必要に迫られたのです。
魔法の言葉としての「ドルコスト平均法」
ここで、金融機関にとっての「救世主」となったのが、「ドルコスト平均法」という話法(セールストーク)です。投資に恐怖心を持つ一般庶民に対して、ドルコスト平均法は次のようなメリットがあるとして語られるようになりました。
- 「タイミングは関係なく毎月買い続けましょう」
- 「毎月コツコツ投資する習慣が大切です」
- 「価格が下がった時こそ投資を始めるチャンスです」
- 「時間分散でリスクを抑えられます」
- 「時間分散をすることで利益が最大化されます」
このように、ドルコスト平均法は、投資の「リスク」という厳しい現実をマイルドにし、国民の投資アレルギーを和らげるための、極めて優れたマーケティングツールとして機能したのです。
この話法は証券会社だけではなく、外貨建て保険を販売する生命保険会社でも好んで使われるようになりました。変動リスクがある金融商品を売るために非常に便利な話法なのです。
ドルコスト平均法にまつわる3つの「誤解」
しかし、この「安全・安心」というイメージは、多くの誤解を生んでいます。
「安全な投資ができる」という誤解
安全=元本割れしない、利益を出せる、という意味だとしたら全くの大嘘です。
ドルコスト平均法は、あくまで購入価格を平均化する手法であり、利益を保証するものでも、元本を保証するものでもありません。いわゆる安全性とは無関係なのです。
例えば、投資対象の価値そのものが長期にわたって下落し続ける場合、いくら平均購入単価を下げたところで、売却時に基準価額がさらに下落すれば、当然ながら損失が発生します。
「時間分散」が安全性が高い手法とされるのは、基準価額が上昇している局面のみです。
「一括投資より堅実に利益を出せる」という誤解
「一括投資はギャンブル、ドルコスト平均法は堅実」という二元論も、意図的な誘導トークでしょう。
多くの歴史的データが示すのは、「右肩上がりの成長市場においては、ドルコスト平均法はリターン面で一括投資に劣後する」という事実です。
世界有数の運用会社であるヴァンガード社が過去のデータを用いて行った有名な調査でも、歴史的には約3分の2の期間で、一括投資の方がドルコスト平均法を上回るリターンを上げていたという結果が出ています。
その理由は単純明快です。
株式市場は短期的には上下動を繰り返しながらも、長期的には右肩上がりで成長してきたからです。
価格が上昇していく局面では、できるだけ早い段階(=価格が安い段階)で多くの資金を投じる一括投資が、時間の経過とともに価格が上がっていく中で少しずつ買い増していくドルコスト平均法よりも、資産を大きく増やせるのは簡単な算数です。
同じ算数で、下降し続ける局面では一括投資よりも損失を拡大させるリスクがあることもわかります。
「機械的に長期で積み立てるべし」という思考停止
「一度設定すれば、あとは機械的に買い続ける」という表現は、特に会社員の感覚にしっくりくるはずです。
日本人はとかく、コツコツという言葉が大好きです。地道にコツコツと、何があっても機械的に継続した人が勝つというストーリーが好きですよね。逆に一攫千金という言葉をひどく軽蔑もしています。ここは日本人のルサンチマンともいえる部分かもしれません。
確かに機械的な投資は、日々の値動きに一喜一憂する必要はありません。
しかし、投資の最終的なリターンは、「いくらで買ったものを、いつ売却して利益を確定するか」という出口に依存しています。
いつ売るべき時が来るか分かりません。機械的に買っていけばいいと思考停止は損失を出す原因になります。
それでもドルコスト平均法に価値はある
誤解してほしくないのは、それでもドルコスト平均法は優れた投資手法だということです。
重要なのは、パフォーマンスの最大化や安全性をこの手法に求めないことです。
ドルコスト平均法の本当の価値は、リターンの追求ではなく、「投資の習慣化」です。
一括投資できる手元資金がなくても、コツコツ投資すればいつかは大きな資金を育てることができます。一括投資にリターンは負けるけれど、それでも0が100になるのであれば成功です。
また、ドルコスト平均法のメリットは、「心理的な安定」も挙げられます。すぐに売却をしないのであれば市場の乱高下に一喜一憂しなくても済みます。
そのため投資初心者には分かりやすい手法だといえるでしょう。
一攫千金を否定してはいけない
日本人の思考として、一攫千金と聞くと何か悪いことのように捉えがちです。
しかし「安く買って高く売る」のはあらゆる商売の基本です。
毎月コツコツと投資するのも習慣化として間違いではありませんが、リターンをより多く目指すのであれば、やるべきことは積み立て投資ではなく、一括投資です。
「毎月コツコツ買い続ける&長期保有」を美化する人たちは大勢います。投資をギャンブルではないと思い込むことができるからです。しかし、これはあくまでもマーケットが上昇し続けている時にしか有効ではありませんし、同じ条件下において利益を最大化できません。
投資はお金が増えれば成功なので、もっと自由に緩く考えてもいいはずです。
100万円で買って、翌月110万円になっていたら売ってしまう。これだけで10万円のリターン確定です。これを12回繰り返したら、13か月後に元利で220万円になります。税金はかかりますがしっかり利益が出ています。
これは極端な空想だとしても、10年で1.5倍になる金融商品があれば、リスクを取らずとも1,000万円を1,500万円に増やすことができます。これを3回繰り返せば30年後に、1,000万円は3,375万円になり、2,375万円の利益となります。これも投資です。億万長者にはなれませんが、老後資金はしっかりと貯まります。
コツコツ毎月投資するだけが投資ではありません。もっと勉強をし情報を仕入れ、カジュアルに一攫千金を狙っても悪くはないのです。























