マイホームという人生最大の買い物に必須の住宅ローン。
その返済期間は35年~40年と長期にわたります。この長い期間、誰しもが病気やケガのリスクと無縁ではいられません。もし、病気で働けなくなったら…?もし、亡くなってしまったら…?
そんな万が一の事態に備えるのが「団体信用生命保険(団信)」です。
かつては死亡・高度障害のみを保障するシンプルな団信が主流でしたが、近年、金融機関の競争激化とともに団信の保障内容は驚くほど多様化しています。ガンと診断されただけでローンがゼロになる「ガン団信」、ガン・脳卒中・急性心筋梗塞という三大疾病に備える「三大疾病団信」、そして精神疾患を除くほとんどの病気やケガによる就労不能をカバーする「就労不能団信」。さらには共働き夫婦向けの「連生団信」も登場しています。
しかし、保障が手厚くなるほど、住宅ローン金利にさらに金利が上乗せされるのが特徴。上乗せされる金利は、要するに「保険のかけ金」と同じような意味合いです。
月々の返済額に直結するため、「どれを選べばいいのか分からない」と悩む方も少なくありません。
この記事では、団信の種類と保障内容を徹底的に解説します。
筆者は住宅専門FPとして累計5,000世帯の団信選びをアドバイスしてきました。その経験を踏まえて忖度なく解説してきますね。
そもそも団体信用生命保険(団信)とは?
団体信用生命保険(団信、だんしん)とは、住宅ローンの契約者が死亡または所定の高度障害状態になった場合に、生命保険会社から銀行に対して支払われる保険金によって、住宅ローンの残高が完済される仕組みの保険です。
残された家族は、その後の住まいの心配やローン返済の負担から解放されるため、住宅ローンを組む際には、ほとんどの金融機関で加入が必須条件とされています。
逆に言うと、健康状態や病歴などで団信に加入できない場合、いくら信用情報に問題がなくても住宅ローンは借りられません。
保険料は、住宅ローンの金利に含まれているため、生命保険のように掛け金を払って加入する必要はありません。
主要な団信の保障内容を徹底比較
団信は大きく分けて、基本的な保障の「一般団信」と、保障範囲を広げた「特約付き団信」があります。ここでは、代表的な団信の保障内容、金利上乗せの目安、メリット・デメリットを比較してみましょう。
| 主な保障内容 | 金利上乗せ(目安) | メリット | デメリット | |
| 一般団信 | 死亡・所定の高度障害状態 | なし | 追加コストなしで基本的な保障が受けられる | 保障範囲が限定的(病気やケガでの就労不能は対象外) |
| ガン団信 | 一般団信+ガン(診断確定) | +0.1% | ・比較的安い保険料でガンリスクに備えられる ・診断確定でローン残高が50%や100%になるなど保障が手厚い | ・ガン以外の病気は保障されない ・保障開始から90日間の免責期間がある ・上皮内ガン等は対象外または保障縮小の場合も |
| 三大疾病団信 | 一般団信+ガン・急性心筋梗塞・脳卒中 | +0.2%~0.3% | 日本人の死因上位を占める三大疾病に備えられる | ・保険料が比較的高め ・心筋梗塞・脳卒中の支払条件が厳しい(「所定の状態が60日以上継続」など) |
| 就労不能団信 (全疾病保障) | 一般団信+病気やケガで長期間働けなくなった状態 | +0.2%~0.4% | ・ガンや三大疾病を含む幅広い病気・ケガが対象 ・精神疾患は対象外の場合が多い | ・保険料が高額 ・「就労不能状態が12ヶ月継続」など免除までの待機期間がある ・精神疾患は対象外 |
一般団信
すべての団信のベースとなる保障です。追加の保険料(金利上乗せ)なしで、契約者の死亡・高度障害という最も重大なリスクに備えることができます。
ガン団信
ガンと診断確定された時点で、住宅ローン残高の50%または100%が弁済されるタイプが主流です。
50%タイプは金利上乗せなし。罹患率の高いガンに手厚く備えられるのが最大のメリットです。ただし、保障が開始されるまでに90日程度の免責期間があります。また「上皮内ガン」や一部の皮膚ガンは保障の対象外である点には注意が必要です。
上皮内ガンは軽度のガンであり、入院日数も短くライフプランに与える悪影響は限定的です。そのためローンの免除にはならない規定です。
三大疾病団信
ガンに加え、急性心筋梗塞、脳卒中という日本人の死因上位を占める三大疾病を保障します。
ガン以外の2つの疾病については注意が必要です。多くの場合、「急性心筋梗塞(脳卒中)を発病し、その治療を直接の目的として所定の手術を受けた場合」や「その疾病により、初めて医師の診療を受けてから60日以上、所定の状態(言語障害、運動失調、麻痺など)が継続したと診断された場合」といった厳しい支払条件が定められています。
筆者の個人的経験では、急性心筋梗塞、脳卒中(脳出血・脳梗塞)を発症した場合、手術または60日以上の麻痺や運動失調が残ることがほとんどです。60日以内に全快する場合は軽度だったとも言えるため、ローンの免除は必要ないでしょう。
就労不能団信
病気やケガの種類を問わず、「所定の就労不能状態」が一定期間続いた場合に保障される、カバー範囲の広さが魅力の団信です。多くの場合、以下のような段階的な保障となっています。
【第一段階】月々の返済保障
就労不能状態が30日や60日を超えて継続した場合、月々のローン返済額が最長1年~2年程度保障される。
【第二段階】ローン残高保障
就労不能状態が12ヶ月や24ヶ月継続した場合、ローン残高の全額が弁済される。
ガンや三大疾病はもちろん、それ以外の病気や不慮の事故による長期入院・在宅療養もカバーできるため、最も現実的な保障です。
一方で、金利上乗せ幅は最も高くなる傾向があります。また、うつ病などの精神疾患は保障の対象外であることに注意してください。
ぺアローン利用者必見!「連生団信」がおすすめ
ペアローンなど、夫婦で住宅ローンを組む場合に検討したいのが「連生団信」です。
これは、夫婦のどちらか一人に万が一のことがあった場合、住宅ローン残高の全額が弁済される仕組みです。
通常のペアローンでは、夫婦それぞれが自分の持ち分に対して団信に加入します。例えば夫に万が一のことがあっても、夫のローンは完済されますが、妻のローンはそのまま残ってしまいます。連生団信であれば、どちらか一方の身に何かが起きた時点で、全体のローン返済義務がなくなります。
| 主な保障内容 | 金利上乗せ(目安) | |
| 連生団信 | 夫婦のどちらか一方が死亡・高度障害で全体免除 | +0.15%~0.25% |
| ガン連生団信 | 連生団信+夫婦のどちらか一方がガンと診断で全体免除 | +0.2%~0.4% |
| 三大疾病・就労不能連生 | 夫婦のどちらかが三大疾病・就労不能で全体免除 | +0.2%~0.4% |
連生団信のメリット・デメリット
- メリット
- 夫婦のどちらかに万が一があった時、残された側の返済負担もなくなる。
- 民間の生命保険で備えるよりもコスパがいい
- デメリット
- ぺアローンのデメリットでもあるが、離婚時は家も団信も失うことが多い
- ローン完済時に、残された配偶者に対して「一時所得」とみなされ、所得税が課税される(可能性を残している)
配偶者の団信適用により得た住宅ローンの免除という「所得」は、一時所得に分類されます。本来であれば課税されるのが正当な手続きです。いまのところは課税されていないようですが、税務署のさじ加減であるため「課税される」と考えておきましょう。
団信選びで失敗しないための5つのチェックポイント
多種多様な団信の中から、自分に最適なものを選ぶにはどうすればよいのでしょうか。以下の5つのポイントを参考に、じっくり検討しましょう。
万が一のとき、住宅ローンが払えるのか考える
まずは自身の健康状態や年齢、そして家族(配偶者、子供)の状況を整理しましょう。万が一のとき、住宅ローンを返済し続けることはできるでしょうか。働き盛りの30代・40代で、扶養家族がいる場合は、団信と生命保険を十分かけておく必要があります。
独身であれば、最低限の一般団信で十分と考えがちですが、大病しても経済的に助けてくれる人がいません。独身であっても住宅ローンは最大限の保障にしておくべきでしょう。
家系の病歴を参考にする
親族にガンや生活習慣病にかかった方が多い場合、遺伝的なリスクを考慮して、関連する疾病保障を手厚くしておくべきです。ガンが多い家系であれば、ガンを重点的に保障しましょう。脳卒中が多い家系もあります。この場合は三大疾病団信や就労不能団信を検討する必要があります。
保険料(上乗せの利息)を含めて返済が可能か
保障が手厚くなるほど、月々の返済額は増加します。例えば、借入額4,000万円、35年返済の場合、金利が0.1%上乗せされると月々の返済額は約1,900円、総返済額は約80万円増加します。この負担増と、得られる安心感を天秤にかけることが重要です。
金利が上昇すると上乗せ利息も上昇する
気をつけるべきなのは、上乗せ金利であるため、元になる金利が上昇したら、返済額も利息額も上昇するということです。
一方、生命保険であれば一生、保険料は変わりません。民間の生命保険との比較も必要です。
生命保険・医療保険とのバランス
一般的に、生命保険・医療保険よりも、団信の方がかけ金(上乗せ利息)が安く、保障内容もはるかに大きくなります。
そのため、もし団信でガン保障をつけた場合、自分で加入している医療保険のガン保障は小さくしてもいいでしょう。借金が完済されてしまうため、医療保険のガン保障はあくまでも治療費のために備えておけばいいのです。
生命保険、医療保険を削り、支出の節約になります。
金融機関ごとの団信の保障内容が違う
団信の保障内容や金利上乗せ幅は、住宅ローンを提供する金融機関によって大きく異なります。
特に、auじぶん銀行やPayPay銀行、イオン銀行といったネット銀行では、「ガン診断でローン残高100%保障が金利上乗せなし」といった非常に魅力的な団信を提供している場合があります。
地方銀行でも、連生就労不能団信が上乗せ+0.2%と、非常に廉価のケースも見られます。
住宅ローン選びは、金利だけでなく「団信の魅力」という視点も加えて総合的に比較検討することが、後悔しないための鍵となります。
団信選びは、生命保険の見直しとセットで
団信選びは生命保険の見直しとセットで検討してください。
とはいえ、住宅購入に詳しくない生命保険営業マンに相談するのはお勧めできません。
必ず住宅専門のFP事務所に相談するようにしてください。






























