「日本の住宅は寿命が短い」という話を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
特に木造住宅の寿命について、漠然とした不安を抱いている方も少なくないでしょう。特に1981年以前に建築された建物は耐震性能が低いなど、劣化が激しい状態です。筆者の実家もまた1970年代初頭に建てられたものでしたが、築25年程度で解体となりました。
木造住宅は寿命は極端に短い・・・そう考える人が多いのですが、技術が進歩した現代、その常識は変わりつつあります。
この記事では、国の統計データを基に木造住宅のリアルな寿命を解き明かしていきます。
そして住宅のせいでライフプランを振り回されないよう、堅実な家づくりのコツも解説していきます。
日本の木造住宅の寿命、その実態は?
日本の住宅寿命に関する統計データがあります。
国土交通省の資料によると、取り壊された住宅の平均築後年数(滅失住宅の平均築後年数)は約32年(2018年)とされています。
2018年の32年前は1986年。建築基準法が改正されたのが1981年ですから、改正後に建てられた建物も数多く解体されているということになります。
これはあくまで「取り壊された家」の平均であり、すべてが「寿命」を意味するわけではありません。実際には、社会経済的な理由(相続、住み替え、都市計画など)で、まだ住める状態でも解体される家が多く含まれています。もちろん、本当に30年で寿命を迎えた建物もあるでしょう。
より実態に近い研究として、早稲田大学の研究チームによる固定資産台帳のデータを用いた分析があります。この研究によれば、木造住宅の平均寿命は、戦後の混乱期に建てられたものを除くと、年々延びており、近年では65年を超えるという結果も出ています。
とはいえ、あくまでも平均であり、どんな建物を建てても65年以上持つわけではないことに注意が必要です。
欧米の住宅寿命がアメリカで約100年、イギリスでは140年を超えるとされるデータと比較すると、日本の住宅寿命が依然として短い傾向にあることは事実です。この背景には、高温多湿な気候、地震の多さといった自然環境に加え、「新築至上主義」という価値観も影響しています。
正直なところ、建物の寿命については、ハウスメーカー自身も断言できないというのが実態です。大きな地震が発生した回数や気候変動、建物の仕様、立地などによっては、30年程度の寿命になることもあるだろうし、100年を超えることもあるだろうというところです。
ローコスト住宅の中には明らかに寿命が短いことが想像できるものもあります。家の寿命はモノによるというのが実態です。
寿命を分ける決定的な違い
同じ木造住宅でも、その寿命は仕様や性能によって大きく変わります。
ここでは「ローコスト住宅」と「高性能住宅」の違いに焦点を当ててみましょう。
ローコスト住宅の寿命と注意点
ローコスト住宅は、規格化されたプランや建材、効率化された工程によってコストを抑えた住宅です。価格が魅力的である一方、寿命の観点では注意が必要です。
もちろん低コストで建てられた住宅だからといって、必ずしも寿命が短いわけではありません。現在の建築基準法が求める建物性能はハイレベルであり、最低限の耐震性や耐久性は確保されています。
しかし、コストを抑えるために、使用される建材や設備のグレードが低いことが多く、高性能住宅に比べて経年劣化が早く進む可能性があります。
例えば外壁材や屋根材、断熱材などの耐久性が低ければ、激しい劣化によって躯体が濡れ、腐朽していくことがありえます。設計上は何の問題はないものの、職人の施工品質が低ければ、想定していない劣化がはじまることもあるでしょう。
2010年代に建てられたローコスト住宅を継続的に観察していると、築5年目あたりから外壁材にヒビと欠けが始まり、10年目には結露を起こしているのか外壁材がカビと藻でひどく汚れている建物があります。築15年目でも外壁のメンテナンスは行っていなく、外壁材の崩壊が始まっています。表面で見えるだけでもそれなので、建物全体ではやはり30年以降は解体に至るのかもしれません。
高性能住宅は長寿命
一方、大手メーカーが建てる高性能住宅は、初期コストは高くなりますが、長寿命であることが想像できます。
代表的なものに「長期優良住宅」があります。
長期優良住宅とは、国が定めた基準(耐震性、省エネルギー性、維持管理・更新の容易性、劣化対策など)をクリアした、長く良好な状態で使用するための措置が講じられた住宅のことです。
長期優良住宅仕様ではなくとも、高性能住宅が長寿命とされる理由は次のような理由が挙げられます。
耐久性の高い構造躯体
湿気対策として床下の高さを十分に確保したり、防錆処理された金物を使用したり、耐久性の高い木材を用いるなど、構造そのものが長持ちするように設計されています。
適切な断熱・気密・換気
高い断熱性と気密性は、快適な室温を保つだけでなく、壁内結露を防ぐ効果があります。壁内結露は、木材を腐らせる腐朽菌やシロアリを活発にさせる原因となり、構造躯体に深刻なダメージを与えます。計画的な換気システムと組み合わせることで、住宅内部を常に乾燥状態に保ち、寿命を延ばします。
高品質な建材・メンテナンス性に優れた建材
外壁材、屋根材、サッシなど、耐候性や耐久性に優れた建材を使用することで、メンテナンスの間隔を延ばし、長期的な美観と性能を維持します。
外壁材はタイルや樹脂などメンテナンス頻度を長く伸ばせるものがあります。サッシも結露しにくいものを選べば窓枠の木材の腐朽を防ぐことができます。
立地がいいこと
建物の性能とは直接関係がありませんが、同条件の建物であれば立地で寿命に差が生まれます。
海のそばに建てると当然ながら塩害を受けます。太陽光発電は海から500メートル以内では設置できないなどの制約があるほどです。
元々湿地であったり、郊外で周辺に植物が生い茂っている分譲地では、湿気によってシロアリが活発になり構造躯体に悪影響を与えます。
大通りに面した住宅では交通量の多さが微細振動を起こし、やはり構造躯体の寿命に影響を与えるという研究もあります。
世界でもっとも降雪量が多いという青森市の場合、冬期間に屋根に数トンもの雪が乗り続けます。この場合は躯体に著しい悪影響があり、同じ建物であっても降雪の無い地域と比べたら寿命が10年単位で短くなるかもしれません。
立地の良い土地は高価格であることから、高性能住宅を購入できる所得層の人が手に入れる傾向があります。高性能住宅が長寿命であるのは、いい立地を手に入れられるという所得の要素もあるでしょう。
定期的なメンテナンスができなければどんな家でも劣化する
どのような住宅であれ、「建てて終わり」ではありません。住宅も定期的な点検とメンテナンスが寿命を延ばす上で不可欠です。
メンテナンスを怠ると、小さな不具合が構造躯体などの重要な部分にまで影響を及ぼし、大規模な修繕が必要になったり、どんな家でも寿命を短くしてしまいます。
一般的な木造住宅のメンテナンスの項目、周期、費用の目安をまとめます。
| メンテナンス項目 | 周期の目安 | 費用相場 | 備考 |
| シロアリ対策(防蟻処理) | 5年ごと | 15~30万円 | 保証期間が5年の薬剤が多いため。被害に遭うと修復費用は甚大。 |
| 外壁塗装・シーリング | 10~15年ごと | 80~150万円 | 足場代含む。塗料のグレードで費用と耐久年数が変わる。 |
| 屋根塗装・葺き替え | 10~20年ごと | 50~200万円 | 材料による。塗装で済むか、葺き替えが必要かで大きく異なる。 |
| 給湯器の交換 | 10~15年ごと | 15~40万円 | エコキュートなど高機能なものは高額になる傾向。 |
| 給排水管の点検・洗浄 | 10~20年ごと | 5~20万円 | 詰まりや漏水を未然に防ぐ。内視鏡調査など。 |
| バルコニーの防水工事 | 10~15年ごと | 10~30万円 | 雨漏りの主要な原因の一つ。トップコートの塗り替えなど。 |
この他にも、床暖房や蓄電池、太陽光発電など設備が増えるほどメンテナンス費用が増えていきます。
これらの費用はあくまで目安ですが、10年ごとにおおよそ100万円~300万円程度のメンテナンス費用がかかると考えておくと良いでしょう。この費用を計画的に積み立てておくことが、住宅を長持ちさせるための重要な資金計画となります。
隠れたリスクを発見する「ホームインスペクション」の重要性
住宅のメンテナンス計画を立てる上で、非常に有効なのが「ホームインスペクション(住宅診断)」です。
ホームインスペクションとは、住宅診断士などの専門家が、第三者の客観的な立場で住宅の劣化状況や欠陥の有無を診断し、改修すべき箇所やその時期、費用などについてアドバイスを行うものです。
たとえるなら、建物の健康診断です。
ホームインスペクションで何がわかるのか?
- 基礎や外壁のひび割れ、傾き
- 雨漏りの兆候(シミ、カビなど)
- 構造躯体(柱や梁)の劣化、腐食、シロアリ被害
- 給排水管の漏水や詰まり
- 断熱材の施工状況
- 換気設備の機能不全
中古住宅を購入する際に利用されることが多いですが、新築時や、10年ごとなどの定期的な健康診断として利用すると寿命を延ばすことにつながります。
目視ではわからない床下や小屋裏の状態をプロの目でチェックしてもらうことで、問題が深刻化する前に対応でき、結果的に修繕費用を抑えることにも繋がります。
老後の思わぬ出費?ライフプランを揺るがす建て替え・大規模修繕
住宅の寿命を考える上で、特に深刻な問題となるのが、老後(退職後)のタイミングで建て替えや大規模な修繕が必要になるケースです。
例えば、30歳で住宅を購入したとします。子供の学費にお金がかかり、メンテナンスにお金をかけられなかったせいで建物は劣化してしまうとどうなるでしょうか。定年退職をする35年後に、数千万円規模の建て替えや、数百万円の大規模修繕が必要になってしまうかもしれません。
それでも劣化した家に住み続けることも可能かもしれませんが、カビの大発生による健康被害、断熱材が劣化することによるヒートショック、大地震による倒壊、など我が家の中でのリスクが増えてしまいます。
メンテナンス費用を考えずに住宅を購入する人は、非常に多くいます。イニシャルコスト(初期費)しか考えてないのです。ランニングコスト(維持費)を含めて予算を考える必要があるのですが、営業マンはあえてその話題はしないのです。
ランニングコストを無視した結果、ライフプランは崩れていきます。
住宅購入の段階で、自身のライフプランと住宅の寿命、ランニングコストを重ね合わせて考えることが不可欠です。イニシャルコストばかり考えて極端な低品質な建物を購入し、メンテナンス費用をかけられないとなると、建物寿命は30年程度がやっとでしょう。
住宅を購入する際、多くの人は初期費用(イニシャルコスト)に目を向けがちです。しかし、本当に重要なのは、建築費に加えて、将来の光熱費やメンテナンス費用まで含めた「ライフサイクルコスト(LCC)」で考える視点です。
寿命とライフプランと予算決めは、住宅専門のFP事務所に相談することをお勧めします。




























