連生団信の保険金は「一時所得」です
マイホーム購入の際、夫婦で住宅ローンを組む「ペアローン」や「連帯債務」を利用する人がが増えています。
その際に悩むのが、夫婦のどちらか一方に万一のことがあった場合に、住宅ローン全額が完済されるという「連生団体信用生命保険(連生団信)」です。
「これで残された家族にローンの負担をかけずに済む」と安心している方も多いのではないでしょうか。しかし、そこに思わぬ「税金の落とし穴」が潜んでいることをご存知でしょうか?
実は、連生団信によって生存している配偶者の住宅ローン債務が免除された場合、残された配偶者に「一時所得」として所得税が課せられるのです。
この記事では、連生団信の課税リスクについて、解説します。
団体信用生命保険(団信)・連生団信とは?
まず、基本的な仕組みから確認しましょう。
基本的な団信の仕組み
団体信用生命保険(団信)とは、住宅ローンの契約者が死亡または所定の高度障害状態になった場合に、生命保険会社が残りの住宅ローン残高に相当する保険金を金融機関に支払い、ローンが完済される制度です。
これにより、遺された家族は住まいを失うことなく、その後の返済負担もなくなります。
この場合、保険金は遺族ではなく金融機関が受け取るため、相続税や所得税などの税金はかかりません。
連生団信の特徴
一方、「連生団信」は、主に夫婦でペアローンを組んだり、一方が主債務者で他方が連帯債務者になったりする場合に利用できる団信です。
最大の特徴は、夫婦のどちらか一方の身に万一のことがあった際、住宅ローン全額が弁済される点にあります。
個別に団信に加入するよりも保険料が割安なケースも多く、非常に魅力的な制度といえます。しかし、この「全額が弁済される」という点が、課税問題の引き金となるのです。
【本題】連生団信でローンが消えても「非課税」ではない!
ここからが本題です。なぜ、連生団信で税金が発生するのでしょうか。
結論→生存配偶者の債務免除は「一時所得」として課税対象
夫が亡くなり、連生団信で住宅ローンが完済されたケースを考えてみましょう。
- 亡くなった夫の債務部分→これは通常の団信と同じ考え方で、非課税です。
- 生存している妻の債務部分→ここが問題です。妻は、自身が死亡したり高度障害になったりしたわけではないにもかかわらず、自身の住宅ローン返済義務がなくなります。これは「債務が免除されたことによる経済的な利益を受けた」とみなされます。
この「経済的利益」が、所得税法上の「一時所得」に該当し、課税対象となるのです。
なぜ贈与税や相続税ではないのか?
「亡くなった夫から、ローンがなくなるという財産を贈与されたのでは?」と考える方もいるかもしれませんが、これは贈与にはあたりません。あくまで保険契約に基づいて保険会社から支払われた保険金による弁済であり、夫婦間の財産のやり取りではないため、贈与税の対象外です。
同じ理屈で、相続財産ではないため相続税の対象外です。
国税庁の見解は?
実はこの点について過去に争われたことがあります。
国税不服審判所(税務署の決定に不服がある場合に申し立てを行う機関)において、「連帯債務者の一方の死亡により他方の連帯債務者の債務が消滅したことによる経済的利益は『一時所得』に当たる」という趣旨の裁決が下されています。
この審判がおりている以上、確実に課税されると思っておくべきです。
ぺアローン+連生団信で住宅ローンが免除されたら、課税される。
ここ重要ポイントです。
一体いくら税金がかかる?一時所得の計算方法とシミュレーション
では、実際にどの程度の税負担が発生するのでしょうか。一時所得の計算方法と具体例を見ていきましょう。
一時所得の計算式
一時所得の課税対象額は、以下の計算式で算出されます。
一時所得の課税対象額=(総収入金額−収入を得るために支出した金額−特別控除額(最大50万円))×½
- 総収入金額 免除された自分の住宅ローン残高です。
- 収入を得るために支出した金額 その収入を得るために直接要した費用です。このケースでは、支払った保険料に相当する部分が考えられます。しかし、団信の保険料は住宅ローン金利に組み込まれているため、ここはゼロとなります。
- 特別控除額 その年に他の一時所得がなければ、最高50万円が控除されます。
この計算で出た金額の二分の一が、その年の給与所得など他の所得と合算(総合課税)され、最終的な所得税額が決まります。
【シミュレーション】ローン残高2,000万円の場合
夫が死亡し、連生団信によって生存している妻の住宅ローン残高2,000万円が全額免除されたと仮定します(他に一時所得はなく、支出した金額は0円とします)。
- 一時所得の金額を計算 (総収入金額2,000万円−支出0円−特別控除50万円)=1,950万円
- 課税対象となる金額を計算 1,950万円×½=975万円
この975万円が、妻のその年の給与所得などに上乗せされて所得税・住民税が計算されます。
もし妻の課税所得(給与所得など)が500万円だった場合、合計の課税所得は 500万円+975万円=1,475万円 となります。所得税の税率は累進課税で、課税所得900万円超1,800万円以下の部分には33%の税率が適用されます。
これにより、百万円単位の追加納税が発生する可能性が十分に考えられます。
注意点と例外ケース
この課税リスクを理解した上で、さらに知っておくべき注意点と例外的なケースがあります。
納税資金の準備が必須になる
住宅ローンの返済義務はなくなりますが、その代わりに納税のための現金が必要になります。
生命保険金と異なり、現金が入金されるわけではありません。手元の現金がないのに、数百万円の納税を現金で支払わなければならないのです。預貯金から出すか、もしくは生命保険金から出すことになります。
確定申告が必要
一時所得は、年末調整では処理されません。
給与所得者であっても、一時所得が発生した年の翌年には必ずご自身で確定申告を行う必要があります。
申告を怠ると、本来の税額に加えて無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されるため、注意が必要です。
高度障害状態の場合は非課税の可能性
所得税基本通達9-27では、「心身の障害に基因して支払われる保険金」は非課税とする旨が定められています。これにより、死亡ではなく、所定の高度障害状態になったことが原因で連生団信の保険金が支払われた場合には、生存配偶者の債務免除益も含めて非課税として扱われる可能性があります。
連生団信の税金リスクへの対策
では、このリスクにどう備えれば良いのでしょうか。考えられる対策を3つご紹介します。
納税資金を別途準備する
最も現実的な対策は、万一の際に発生するであろう納税額をあらかじめ試算し、その資金を準備しておくことです。 例えば、納税資金分をカバーできる死亡保険(掛け捨ての定期保険など)に別途加入しておく方法があります。これにより、遺された配偶者が納税に困窮する事態を避けることができます。
ローン契約の形態を再検討する
これから住宅ローンを組む場合は、連生団信以外の選択肢も検討しましょう。例えば、夫婦それぞれが自分の持ち分に応じたローンを組み、それぞれが個別の団信に加入する方法です。 この場合、夫が死亡しても妻のローンは残りますが、少なくとも今回解説した一時所得の課税問題は発生しません。
残ったローンをどう返済していくか(死亡保険金で繰り上げ返済するなど)を緻密に計画することが大切です。
【最重要】必ず専門家に相談する
連生団信の課税関係は非常に専門的で、個別の契約内容や家庭の状況によって判断が異なります。 ご自身のケースで課税対象になるのか、いくら納税が必要になりそうか、どのような対策が最適か。最終的な判断は、必ず税理士や所轄の税務署に相談してください。
銀行の担当者は、実のところこの部分には詳しくないことがほとんどです。
連生団信のメリットとリスクを正しく理解しよう
連生団信は、非常に優れた保険制度です。
最近は「ガン保障付連生団信」「三大疾病連生団信」などバリエーションが増えています。
しかし、その魅力的な商品の裏には、「生存配偶者の一時所得課税」というリスクが潜んでいます。
| 税金の種類 | 課税関係 | |
| 亡くなった配偶者のローン残高 | – | 非課税 |
| 生存配偶者のローン残高 | 所得税(一時所得) | 課税対象となる |
団信選びは非常に難しい判断となります。
住宅専門のFPに相談しながら、生命保険の見直しとセットで団信を選んでいきましょう。



























