「終身保険で老後資金準備」そのリスクとは
「人生100年時代」と言われ、多くの人が自身の老後資金に関心を寄せています。その準備方法として、銀行預金やiDeCo、NISAと並び、選択肢の一つとして挙げられるのが「終身保険」です。
「万が一の保障を得ながら、貯蓄もできる」という言葉に魅力を感じ、老後資金作りの一環として終身保険に加入を検討したり、すでに加入している方も少なくないでしょう。若いころにバブル景気を経験した今の60代、70代の方は終身保険で資産形成をするのは身近だったと思います。
2025年現在、終身保険は予定利率が低く決してパフォーマンスのいい資産運用ではありません。「終身保険で老後資金を貯める」という使い方には幾分、リスクもあります
しかしパフォーマンスの優劣を横に置くとしても、保険としての機能には多くのメリットがあります。保険として使う分には非常に優秀な金融商品なのです。
この記事では、終身保険の使いどころと注意ポイントを解説していきます。
そもそも、なぜ終身保険が老後資金として注目されるのか?
終身保険のリスクを理解するために、まずは基本的な仕組みと、なぜ老後資金の準備方法として語られるのかを確認しましょう。
終身保険とは?
終身保険は、その名の通り「身が終わるまで」の保険です。つまり、「保障が一生涯続く死亡保険」ということです。
被保険者が亡くなった際や、所定の高度障害状態になった際に、契約時に定めた保険金が受取人に支払われます。

非常にシンプルでコスパが高く、昔から人気があります。
ただしネット通販では終身保険のラインナップは皆無です。終身保障型の医療保険はあっても、本来の意味での「終身保険」はリスクも存在するため、対面販売でしか買えません。
なぜ終身保険が老後資金になるのか?
終身保険が貯蓄性を持つと言われる理由は「解約返戻金」があるからです。
解約返戻金とは簡単に言うと、保険契約を途中で解約した際に、それまでに払い込んだ保険料の一部が戻ってくるお金のことです。
特に、保険料の払込期間を10年間という短期に設定する「短期払」のプランでは、払込期間が満了すると、解約返戻金の金額がそれまでに払い込んだ保険料の総額を上回るケースがあります。
例えば10年間の払込総額500万円、払い込みが満了してから15年間経過した後の解約返戻金が600万円になる、といった具合です。
この「増える金額」に着目し、老後の資産形成に活用しようというのが、終身保険を老後資金対策として考える基本的なロジックです。
「若い時には保険として、老後には解約して解約返戻金を受け取る」という使い方なのです。
最大の落とし穴「老後資金として使う」=「保険の解約」
ここからが本題です。
前述の通り、払込満了後に解約返戻金が払込保険料を上回る可能性があるため、一見すると非常に魅力的に映ります。
たしかに解約返戻金を老後資金に使えるはずです。
しかし、ここに最大とも言える落とし穴が潜んでいます。
生きている間に現金として使うには「解約」しかない
終身保険は、あくまで「死亡保障」を目的とした商品です。保険金が支払われるのは、原則として自分が「死亡」したときです。
つまり、老後の生活費や趣味、旅行、介護費用など、生きている間に使うためのお金として手元に現金を引き出すには、保険契約そのものを「解約」して、解約返戻金として受け取る以外に方法はありません。
保険のパンフレットに書かれている「払込満了後の返戻率120%!」といった数字は、あくまでその時点で「解約した場合」に受け取れる金額の割合なのです。
解約せずに持ち続けているだけでは、そのお金を自由に使うことはできません。生命保険が生命保険たるゆえんです。
解約がもたらす「保障の消滅」というジレンマ
そして、保険を解約するということは、当然ながら「本来の目的であった死亡保障が、その時点で完全に消滅する」ことを意味します。
ここに、多くの人が直面するジレンマが生まれます。
- 老後資金を得るために解約 → 万が一の時に遺族に残す死亡保障がなくなる。
- 死亡保障を残すために継続 → 老後資金として自由に使える現金が手に入らない。
つまり、「1本の終身保険で、老後の生活資金を確保しながら、亡くなった時の死亡保障も万全に準備する」という、二つの目的を同時に満たすことは、原理的に不可能なのです。
一部の人は、「死亡保障ももらえて、解約返戻金ももらえるんだ!」と勘違いしているようです。そんなことはありません。基本的にどちらかしか選べないのです。
「老後資金」と「死亡保障」を両立させる方法
「老後資金も死亡保障も両方欲しい場合、どうすればいいのか?」と疑問に思うでしょう。
いくつかの方法は存在しますが、それぞれに一長一短があり、万能な解決策ではありません。特に、もともと契約している終身保険の保障額が小さい場合、その難易度はさらに高まります。
ここからは老後資金と死亡保障を両立させる方法を解説していきます。
保険を「一部解約」する方法
一部の保険会社や商品では、保険契約全体を解約するのではなく、保障額の一部を解約(減額)して、その分の解約返戻金を受け取ることができます。
これならば、必要な資金を部分的に現金化しつつ、減額された死亡保障は継続させることができます。
ただし、保険会社によっては一部解約の取り扱いがない場合があります。
この方法の最大の問題点がこちらです。
元の保障額が小さいと、無意味
例えば、保障額500万円の終身保険を契約している場合、そこから一部解約で100万円の現金を得られても、残る死亡保障はごく少額でしょう。これでは、老後資金としても死亡保障としても中途半端な結果になりかねません。十分な備えをするには、もともと大きな保障額の契約が必要(=高額な掛け金が必要)なのです。
目的別に「2本の保険」に加入しておく方法
最もシンプルで計画的な方法がこれです。初めから目的を分けて、2本の終身保険に加入します。
プラン例
- 老後資金用(解約前提)の終身保険: 10年払済などで契約し、老後資金が必要になったタイミングで解約して解約返戻金を受け取る。
- 死亡保障用(継続前提)の終身保険: 60歳払済などで契約し、葬儀費用や相続対策費用など、必ず残したい金額分を生涯継続する。
しかし、この方法はデメリットもあります。
保険会社の多くには「高額割引制度」があります。高額な保険契約をする場合、かけ金がディスカウントされる制度です。これをふたつに分けると、この特典が活かせません。
便利ではあるが、コスパはやや劣ります。
「契約者貸付」を利用する方法(※おすすめしません)
解約せずに資金を準備する方法として「契約者貸付」という制度があります。
これは、その時点での解約返戻金の一定範囲内(通常7~8割程度)で、保険会社からお金を借りる制度です。
保障を継続したまま、一時的に資金を借りることができます。解約ではないため、保障は消滅しません。
ただしデメリットが非常に多くあります。
契約者貸付は借金です
契約者貸付は、自分の資産を引き出すのではなく、解約返戻金を担保にした「借金」です。自分の貯蓄を引き出すかのように誤解している方も大勢います。
借金ですから所定の利息がかかります。その利息は、予定利率+1%程度です。
死亡時は保険金から相殺される
もし返済しないまま被保険者が亡くなった場合、死亡保険金から借入元本と利息が差し引かれます。同様に、解約した場合も解約返戻金から相殺されます。
利息がふくらみ、強制解約となることも
保険を担保にした借金ですから、利息がふくらみ担保価値をオーバーしてしまうと、保険契約が強制的に解約になります。
残念ながら、非常に多くの方が契約者貸付を完済できず、解約への道をたどります。自由に使えるお金が手元にない時点で、家計のキャッシュフローが崩壊しているので、保険を失うのも当然の流れです。
契約者貸付ができることをあたかも魅力のように説明する営業マンがいたら、それ以上の商談をやめることをお勧めします。契約者貸付はコスパ最悪の借金です。他に現金を調達する手段がない時の最悪の手段であって、家計の資金繰りとしては悪手です。
終身保険で老後資金を準備する際のリスク
「解約」の問題以外にも、終身保険を貯蓄目的で利用する際には、知っておくべきリスクが存在します。
早期解約による「元本割れ」のリスク
解約返戻金が払込保険料を上回るのは、あくまで長期間継続し、払込期間を満了した場合の話です。契約から年数が浅い段階で、急にお金が必要になって解約せざるを得ない場合、解約返戻金は払込保険料の総額を大幅に下回り、「元本割れ」を起こす可能性が非常に高いです。
特に、保険料を安くするために「低解約返戻金型終身保険」に加入している場合、払込期間中の解約返戻金は通常よりもさらに低く設定されているため、このリスクはより顕著になります。
保険料を長期間支払い続けられるかどうかは、家計のシミュレーションが必要です。
「インフレ」のリスク
終身保険は、契約時の予定利率で将来の解約返戻金額がほぼ固定される商品です。これは安定している反面、インフレ(物価上昇)に弱いという大きな弱点を抱えています。
例えば、30年後に500万円の解約返戻金を受け取る計画を立てたとします。しかし、30年の間に物価が2倍になっていたら、その500万円の実質的な価値は現在の250万円分にまで目減りしてしまいます。
数十年にわたる長期契約だからこそ、インフレでお金の価値が下がってしまうリスクは常に考慮しなければなりません。終身保険という保険の仕組み上、インフレには強くありません。
かといって、「外貨建て終身保険=インフレに強い」という説明は間違いです。インフレリスクを避けることと、外貨建てで資産を持つこととは無関係です。
「機会損失」のリスク
終身保険は、あくまで「保障」がメインの保険商品であり、そのコスト(保険会社の経費や保障のための費用)が保険料に含まれています。
そのため、資産を増やす「貯蓄・投資」という観点で見ると、NISAやiDeCoといった投資商品に比べて効率が良いとは言えません。 もし、保険料と同じ金額をNISAなどを活用して長期的に積立投資していれば、終身保険の解約返戻金を上回る資産を築ける可能性もあります。
保障機能のない金融商品と比較した場合の、資産増加の可能性の差を「機会損失」と呼びます。
終身保険を検討するときには、あくまでも保険として必要かどうかで判断しましょう。解約返戻金を優先的に考えて検討するのはNGです。
まとめ
終身保険が持つ「万が一の保障」と「貯蓄性」は、一見すると万能に見えます。しかし、本記事で解説した通り、老後資金として活用するためには「解約」が原則であり、その瞬間に「死亡保障」は失われます。そして、予定利率が固定された終身保険であれば、インフレリスクは現金と同等かそれ以下です。
この根本的な構造を理解することが、保険プランニングの失敗を避ける第一歩です。
では、私たちはどのように老後資金と向き合うべきなのでしょうか。その答えは「目的の明確化」と「金融商品の適材適所」にあります。
目的を分けて保険に入ること
- 遺族のための生活保障 → 必要な期間だけ大きな保障を確保できる「収入保障保険」や「定期保険」などの掛け捨ても検討する
- 葬儀費用・死後整理資金 → 必要な保障金額の「終身保険」でカバーする
- 老後の生活資金の形成 → 税制優遇のある「iDeCo」や「NISA」を優先する
資産形成だけを目的とした終身保険の加入は、失敗のもとです。
終身保険は決して悪い商品ではありません。相続税対策や、必ず遺したいお金の準備など、その特性が活きる場面は確かに存在します。しかし、「老後資金を貯める」という目的のメインエンジンとして据えるには、多くの矛盾とリスクを抱えていることを忘れないでください。
終身保険を検討する際には、高い保険料を払えるか、老後まで解約しなくとも預貯金が手元にあるか、住宅ローンを返済できるか、など長期にわたる家計のキャッシュフローをFPに相談しましょう。























