新政権誕生で住宅ローン金利は?
「もし高市早苗氏が総理大臣になったら、住宅ローン金利はどうなってしまうのだろう?」
マイホームの購入を検討している方、あるいはすでに住宅ローンを返済中の方にとって、政治の動向と金利の未来は、家計に直結する死活問題です。特に、アベノミクスの継承・発展を掲げる高市氏の経済政策「サナエノミクス」は、良くも悪くも金利に大きな影響を与える可能性があります。
本記事では、高市政権が誕生した場合の住宅ローン金利(変動金利・固定金利)の先行きを、様々な角度から予測します。
これはあくまで筆者の主観的な見通しですが、現在考えられるシナリオを網羅し、皆さまがこれからの住宅ローン戦略を立てる上での一助となることを目指します。
【結論】短期は「緩やかな上昇」か。しかし中長期では「想定以上の上昇」、そして家計崩壊が多発へ
まず結論から。
高市政権が誕生した場合の住宅ローン金利は、「短期的(1〜2年)には緩やかな上昇、中長期的(3年以上)には、変動・固定ともに激しい上昇」と予測します。
高市氏の掲げる経済政策は「積極財政」と「金融緩和の継続」という、金利に対して矛盾するベクトルを持っているからです。この綱引きが、今後の金利動向の鍵を握ります。
「変動金利」と「固定金利」それぞれに分けて、そのメカニズムと高市政権が与える影響について詳しく掘り下げていきましょう。
変動金利はどうなる?→「デフレ脱却」優先で、当面は低金利を継続させようとする可能性
住宅ローン利用者の約7割が選択している変動金利。この金利の基準となるのは、日本銀行(日銀)の政策金利です。2024年にマイナス金利政策が解除され、「金利のある世界」へと歩みを進めましたが、依然として政策金利は0.1%程度という歴史的な低水準にあります。
では、高市政権はこの日銀のスタンスにどう影響を与えるのでしょうか。
「サナエノミクス」の核心は金融緩和の継続だが
高市氏はかねてより、アベノミクスの第一の矢である「大胆な金融緩和」を高く評価しており、デフレからの完全脱却を最優先課題に掲げています。過去の発言からも、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇(インフレ)が定着するまでは、拙速な利上げには反対の立場であることが鮮明です。
2025年現在、物価は上昇しているものの、その主な要因は円安による輸入物価の高騰であり、多くの国民が賃金上昇を実感できていない「コストプッシュ型インフレ」の側面が強い状況です。この状況で日銀が追加利上げに踏み切れば、景気を冷やし込み、企業の収益や個人の住宅ローン返済を圧迫しかねません。
高市氏は、金融政策の方向性を決めるのは政府の責任であるという考えを示唆しており、政権発足後は、日銀に対して金融緩和の継続を強く求める、あるいはそうした意向に沿う人物を日銀審議委員に送り込む可能性も考えられます。
ただし事はそう簡単ではありません。現在の植田和男総裁率いる日銀は、長年の異次元緩和の副作用を考慮し、マイナス金利解除を皮切りに、慎重に金融政策の「正常化」を進めようとしています。これは、持続的な賃金上昇を伴う物価安定目標(2%)の達成を見据えつつも、市場機能の回復や将来の経済ショックに備えるための利上げ余地を確保したいという考えに基づいています。
一方、高市氏の経済政策「サナエノミクス」の柱は、防災・減災などの「危機管理投資」や先端技術への「成長投資」を大規模に行う「責任ある積極財政」です。この財源の多くは国債の増発によって賄われることになります。
国債が増発されれば、通常は供給過多で価格が下がり、長期金利は上昇します。しかし、金利が上昇すると政府の利払い負担が増え、企業の設備投資や個人の住宅ローンにも悪影響が及びます。
これを避けるため、高市政権は日銀に対して「国債を安定的に買い入れ、長期金利を低位に抑える」ことを直接的に要求することが想定されます。
積極財政と金融緩和は矛盾する金融政策であり、高市氏と日銀の衝突は避けられないでしょう。今後、金融政策は混乱と混迷が予想されます。
変動金利はどうなる?長期的には大きく上昇か
このことから、高市政権が誕生した場合、少なくとも政権発足後の1〜2年は、混乱の中で日銀の追加利上げは緩やかなものになると予想します。これまで想定していたよりもスピードは揺るやかになるかもしれません。
しかし、金融政策の「正常化」はどの政権にとっても避けられないテーマです。金利を上げていく必要性があるため、今後変動金利が現状維持、もしくは低下する可能性はありません。長期的には著しい上昇へと向かっていくと思われます。
固定金利はどうなる?上昇していく可能性が大きい
固定金利(フラット35など)の動向は変動金利よりも複雑で、不確実性が高くなります。固定金利のひとつの指標となるのは、主に「新発10年国債利回り」、いわゆる長期金利です。この長期金利は、様々な要因が複雑に絡み合って決まります。
上昇要因:「積極財政」がもたらす国債増発の懸念
高市氏が掲げる「サナエノミクス」のもう一つの柱が、「責任ある積極財政」です。具体的には、防災・減災などの「危機管理投資」や、半導体・AIといった分野への「成長投資」を大規模に行うことを主張しています。
これらの大規模な財政出動の財源は、主に国債の発行によって賄われます。市場に国債の供給量が増えれば、国債の価格は下落し、その利回りである長期金利は上昇する圧力がかかります。
これに対して「財政規律が緩み、将来の返済能力に疑問符がつく」と見なされれば、日本国債への信頼が低下し、海外の投資家などが国債を売り浴びせ、長期金利が急騰(クラッシュ)するリスクもゼロではありません。
抑制要因:日銀による国債買い入れ(金融緩和)
しかし、上昇を抑制する力も働きます。それが「金融緩和の継続」です。
日銀は現在も大量の国債を買い入れることで、長期金利が急激に上昇しないようにコントロールしています(イールドカーブ・コントロール=YCCは形式上撤廃されましたが、急変動時には介入する姿勢を示しています)。
高市政権が金融緩和の継続を日銀に求めるということは、「政府が財政出動で国債を大量に発行する一方で、日銀がそれを買い支える」という、アベノミクス下で見られた構図がより鮮明になる可能性を示唆します。
固定金利の綱引きと予測
つまり、固定金利は、
- 上昇要因: 積極財政による国債増発
- 抑制要因: 日銀による国債買い入れ
という、まさにアクセルとブレーキを同時に踏むような矛盾する状況に置かれます。この綱引きの結果、固定金利がどちらの方向に動くかは、その時々の経済情勢や市場心理に大きく左右されるため、予測は極めて困難です。
総合的に見れば、長期的には上昇圧力が優勢になる可能性が高いと筆者は考えます。世界的なインフレ圧力や、日本の財政に対する信頼が高くないことを踏まえれば、日銀が金利を意のままにコントロールし続けることには限界があるからです。
したがって、これから固定金利での借り入れを検討している方は、金利が本格的に上昇する前に、フラット35への借換えを決断することが有力な選択肢となるでしょう。
変動、固定ともに金利が上昇していくことが予想されているため、早めの固定への借換えが肝かもしれません。
今後金利が上昇していく 3つのシナリオ
高市政権下での中長期の金利上昇の3つのシナリオを紹介します。
シナリオ1:財政・金融政策による「良いインフレ」と「金利の正常化」
最も理想的なシナリオは、「サナエノミクス」が成功し、大規模な財政出動が企業の生産性向上やイノベーションを促し、持続的な賃金上昇を伴う「良いインフレ」(ディマンドプル型インフレ)が実現するケースです。
物価と賃金が安定的に2%程度上昇する経済になれば、日銀もいよいよ金融緩和政策からの「出口」に向かい、政策金利を段階的に引き上げていくことになります。これは経済の正常化を意味し、日本経済にとっては望ましい姿です。
しかし、これは同時に変動金利の本格的な上昇を意味します。政策金利が1%まで上がれば、現在の優遇金利が維持されたとしても、多くの変動金利住宅ローンの適用金利は2%前後に達する可能性があります。これは、現在の返済額から見れば大幅な負担増です。
3%程度までは上がることを想定内として家計をシミュレーションする必要があるでしょう。
シナリオ2:制御不能なインフレと「悪い金利上昇」
懸念されるのは、積極財政と金融緩和の組み合わせが、経済の供給能力を超えた需要を生み出し、制御不能なハイパーインフレを招いてしまうシナリオです。あるいは、さらなる円安を招き、輸入物価の高騰が国民生活を直撃する可能性もあります。
このような「悪いインフレ」が進行した場合、日銀は景気を犠牲にしてでも、急激な利上げに踏み切らざるを得なくなります。これも変動金利の急上昇に直結します。
また、財政規律の喪失と見なされれば、前述の通り日本国債が暴落し、長期金利が急騰。これは固定金利の急上昇を意味します。変動・固定ともに金利が急騰するこのシナリオは、日本経済と国民生活にとって最悪の結末と言えるでしょう。
少なくない人たちがローンが払えず家を失うことになります。一方で中古市場に物件が供給され、活発化する側面もあります。
シナリオ3:海外要因による金利上昇圧力
高市政権の政策とは直接関係なく、米国のインフレが再燃し、FRB(米連邦準備制度理事会)が再度利上げに動くなど、海外の金利が上昇するシナリオも十分に考えられます。
世界の金融市場が連動している以上、日本の長期金利もその影響を免れることはできず、上昇圧力がかかります。これは固定金利の上昇に繋がります。国内の景気が回復していないにもかかわらず、海外発の要因で金利が上昇する「スタグフレーション」のリスクも意識しておく必要があります。
日本の庶民はより苦しい方向へと向かうことになるでしょう。
この3つのシナリオは、どれも金利上昇というストーリーです。金利の上昇が緩やかになる短い期間があったとしても、数年後には爆上がりすることになりそうです。
住宅ローン利用者が今からできる対策とは?
少なくとも住宅ローン利用者にとって、返済金額の上昇は避けられません。
金利上昇に備えて、私たちは何をすべきなのでしょうか。
- 徹底した情報収集と金利シミュレーション まずは、ご自身の住宅ローンの契約内容(金利タイプ、優遇幅、残高、残存期間など)を正確に把握しましょう。その上で、金融機関のウェブサイトなどを活用し、「もし金利が1%、2%上昇したら、毎月の返済額や総返済額はいくらになるのか」を必ずシミュレーションしてください。具体的な数字でリスクを把握することが、冷静な判断の第一歩です。
- 購入前なら「固定」か「変動」か、自身の許容度を再確認する 金利上昇局面では、「変動金利は危険」「固定金利にすべき」という論調が強まり、低金利局面では「変動一択」と考えがちです。しかし、どちらが絶対的に正しいという答えはありません。年収や貯蓄額、家族構成などそれぞれの世帯によって異なります。
- 借り換えを常に選択肢に入れておく すでに住宅ローンを返済中の方は、より条件の良いローンへの「借り換え」を常に選択肢に入れておきましょう。長期金利が本格的に上昇する前に、フラット35に借り換えておくのは有効な防衛策です。
まとめ
高市政権の誕生は、住宅ローン金利に大きな変動をもたらすリスクがあります。高市政権の政策は「金融緩和の継続」と「積極財政」という二つの方針を持ち、これは金利に対して矛盾する方向に作用します。
- 変動金利: 金融緩和継続の恩恵で、1~2年の間は緩やかな上昇となる可能性が高いです。しかし、将来的なインフレとそれに伴う大幅な利上げリスクは常に念頭に置く必要があります。
- 固定金利: 国債増発による上昇圧力と、日銀の買い支えによる抑制圧力が綱引き状態となり、先行きは極めて不透明です。ただし、中長期的には上昇リスクの方が大きいと考えるべきでしょう。場合によってはクラッシュするほど高騰するかもしれません。
結論として、フラット35への借換えは早めに検討すべきかもしれません。2026年の初めには結論を出した方が良さそうです。





























