- 1 保険業界に蔓延っている、ある「幻想」とは?
- 2 「乗合代理店=公平中立」とアピールするのは禁止されている
- 3 本当の「中立」は複数社を比較することではない
- 4 保険は「選ぶ」ものではなく「設計する」もの
- 5 保険募集人として忘れてはならないもの
- 6 「透明性」が求められる時代に突入します
- 7 欧米では、今の日本の保険業界のあり方は通用しない
- 8 「販売代理」と「助言業」が明確に分かれている
- 9 日本の乗合代理店のFDは、欧米基準では“違反”
- 10 欧米の倫理観では「乗合代理店」は利益相反
- 11 欧米では「販売手数料で食べるFP」は淘汰された
- 12 「欧米型IFA」と「日本型乗合代理店」の構造比較
- 13 日本でも「IFA的なFP」への転換期にある
- 14 当社はいずれ助言と販売を分離することになります
保険業界に蔓延っている、ある「幻想」とは?
「複数の保険会社を扱っています」「多くの商品の中から最適なプランをご提案します」「当社は中立の立場です」──。
保険代理店やファイナンシャルプランナー(FP)の広告で、こうした言葉を目にする機会は多いと思います。
昨今の保険営業マンの多くは、複数社を取り扱えること、つまり乗合代理店であることが常識であり、トレンドであり、正義なのだと信じています。筆者もそう強く信じていたのですが・・・
残念ながらそれは幻想にすぎないと、いつの頃からか気づいてしまいました。
確かに、取り扱い会社が多いと中立的に感じられ、安心感を持つ顧客も多いかもしれません。たとえば数多くの保険会社の医療保険を比較すると、重い病歴があっても入れる保険会社を選ぶことが可能になるかもしれません。手術給付金が、入院日額の20倍なのか60倍なのかというスペックも比較はできるでしょう。
しかしそれは本当に「中立」であり「顧客本位」なのでしょうか。
違うのではないかな・・・と筆者は考えます。
青森県と東京都を拠点に全国から住宅・保険相談を受ける長岡FP事務所では、生命保険会社・損害保険会社・少額短期保険会社をそれぞれ1社ずつのみ取り扱うという、FP・保険業界では類を見ない方針を取っています。これは業界のいまの流れに対するアンチテーゼであり、相当なリスクのある判断です。
当社では比較推奨販売をしないというのが、経営上の哲学です。乗合行為をせず一社だけの取り扱いとし、あえて比較推奨販売を行わないことが、透明性のある説明責任を果たすことであると考えているからです。
同業者からしたら、あなたはなにを知ってるのか?と驚くかもしれません。乗合こそがお客様にとってメリットがあるじゃないかと。繰り返しますが、そのメリットは筆者も十分に分かっています。
同業の方がどう考えるかは分かりませんが、筆者は商品比較が必ずしもお客様のためとは言えないと考えているのです。
保険は本来、商品比較ではなく、人生を守れるかどうかが重要です。保険募集人であれば、新人の頃に使命感に燃えたはずです。
保険という仕組みの本来の使命と目的を理解し、信頼のある保険を持ちたいと考えている人にとっては、当社のポリシーを受け入れていただけるようです。大切なのは保障のプランニングと担当者だと考える方であればです。
当社では、取り扱い保険会社がたとえ数十社であったとしても、理論上、中立にはならないと断言しています。助言と販売を同一人物が行えば、中立ではないのです。結局のところ、保険会社を複数取り扱うのは、売り手が効率よく儲けるためであって、顧客本位のためではありません。売りこぼしたくないから、乗合をしているのです。
欧米のIFA(独立系金融アドバイザー。日本でいう助言型FP)では、もはやこのような発想は倫理的に許されません。エシカルではないとして違法行為になっています。この記事ではその点も解説していきます。
「乗合代理店=公平中立」とアピールするのは禁止されている
保険業界では、「複数の保険会社を扱う=中立である」という考え方が広く浸透しています。筆者も大手乗合代理店に所属していた時代は、最初そう信じていました。
確かに、複数の会社の商品を取り扱えば、提案の幅が広がるように見えます。
しかしあくまでも筆者の体験として言いますが、それは錯覚でした。乗合のメリットは私自身にしかなかったのです。それは私の利益を最大化できるチャンスがある、というメリットです。
乗合代理店が保険商品を比較提案をするのは、金融庁から義務化されています。複数の保険会社を取り扱うのであれば、顧客のニーズに合致する保険を複数必ず提案して、特定の保険会社に偏ってはいけない、という指導があるのです。
逆の言い方をすると、「保険会社から得られる販売手数料や経済的便宜(つまりバックマージン)によって、提案する保険会社のラインナップにバイアスをかけるなよ?」と、監督省庁は釘を刺しているのです。
保険業界ではそれまで公平中立を謳い文句に乗合代理店であることをアピールしていたのですが、金融庁からは「おまえらは販売者であって公平中立ではないだろ!」と厳しいツッコミを受けて、いまはNGワードになっています。中立や公平を標榜してはいけないというのが現実なのです。
本当の「中立」は複数社を比較することではない
長岡FP事務所が採用しているのは、いわゆる「一社専属制」です。
生命保険はメットライフ生命、損害保険は日新火災、少額短期保険はプラス少額短期保険。
それぞれの保険分野で1社だけに絞りました。絞り込みのプロセスにおいて、各保険会社の商品スペック、商品ラインナップ、メリットとデメリット、支払実績・サービス体制まで徹底的に比較したうえで、お客さまのあらゆるニーズを満たすことができる保険会社を選定したのです。
筆者は生命保険業界は20年、損害保険業界は25年のキャリアがあります。その経験によって厳選した保険会社の組み合わせが完成しました。
この「一社専属制」は、「責任を明確にするための選択」でもあります。
「保険会社をたくさん扱うこと」よりも「なぜその会社を選び、どう活用するのか」について明確にすることの方が、お客さまと誠実な関係を築けると考えているのです。
FPの役割は、どの保険を売るかではなく、どのようなリスクにどう備えるかを設計することです。そのためには、商品数の多さよりも、ライフプランニングの質と、提案の根拠が大切だと考えています。
そのことが本来の意味での「中立性」であり「責任」であると考えています。FPはコスパ比較屋さんではないのです。
保険は「選ぶ」ものではなく「設計する」もの
多くの方が「どの保険に入ればいいのか」を気にしますが、当社の視点からすると、保険は「選ぶもの」ではなく「設計するもの」です。
そしてもっと言うと、「万が一のときに保険金を支払ってもらい家族を守るもの」です。
保険は、保険金の支払いのときが納品のときです。その納品のときに、本当に役立つ保険でしょうか。コスパは最高、でも全く役に立たない保険ではそもそも意味がありません。
必要な保障額や期間は、家庭の状況によってまったく異なります。
住宅ローンの有無、家族構成、教育費、老後資金など、条件がひとつ変われば結論も変わります。
長岡FP事務所では、まずライフプランの全体像を可視化し、顧客の人生哲学や理想をお聞きしたうえで「どのリスクに、どれだけ備えるべきか」を定量的に示します。
その結果、保険が必要と判断された場合にのみ、当社が厳選した保険会社の保険商品を使って適切なプランニングを行います。
この流れこそが、真の意味で「顧客本位のFP業務」だと考えています。
保険募集人として忘れてはならないもの
商品ラインナップが最も充実した保険会社を選んでいるため、顧客のニーズにこたえられないという場面はほとんどありません。一部、特殊なニーズに対しては対応しきれない場合がありますが、その場合は少額短期保険や損害保険を使って設計を調整しています。
そのことでお客様の問題解決が過不足なくできています。
もちろん、かけ金は数十円程度の違いで、もう少し安くなる保険会社の組み合わせはあるのかもしれません。また、当社の利益だけを考えたら、もっと販売手数料が高い保険会社もあるのは知っています。目を疑うほど高額な手数料を提示する保険会社も存在します。
しかし、当社はかけ金のコスパや、販売手数料だけで取り扱う保険会社を選んでいません。お客様の問題解決をきちんとできる商品ラインナップを用意できるかどうかで取り扱い保険会社を決めています。
長岡FP事務所がこの方針を貫いているのは、お客さまに「商品比較ではなく必要な保障の理解」と「担当者の必要性」を優先していただいているからです。
それが当社の考える本来の中立の形であり、保険業界の人間としての責任なのです。
「透明性」が求められる時代に突入します
保険業界では、収益構造を公表しないケースが少なくありません。乗合代理店が複数の保険会社を取り扱っているけれど、その提案によって、保険代理店が販売手数料をいくら受け取るのか、絶対に公表しないのです。
また、マネーセミナーのように、集客の目的を告げないものまであり、問題視されています。
これは倫理性に大きな問題があると言わざるをえません。
マネーセミナーについて警鐘を鳴らした記事がこちら。
長岡FP事務所では公式サイト上で取り扱い保険会社と収益構造を明記しています。提案商品の販売手数料の開示も、近く開始する予定です。
保険提案における経済的なバイアスは開示し説明します。
収益構造と販売手数料を明確にすることが、お客様の信頼につながると信じています。
透明性が担保されなければ、いくら保険会社を乗り合っても決して顧客本位とはいえないのではないでしょうか。
欧米では、今の日本の保険業界のあり方は通用しない
ここからは欧米での保険業界の様子をご紹介します。
実は、アメリカやヨーロッパでは日本の「乗合代理店型モデル」は存在しません。
法律上も倫理上も成立しえない仕組みとみなされます。違法なのです。
その背景と理由を体系的に整理します。
「販売代理」と「助言業」が明確に分かれている
まず最も大きな違いは、販売(セールス)と助言(アドバイス)の職業が分かれていることです。
日本の場合
日本では、生命保険募集人(代理店)もFPを名乗ることができます。
つまり、「保険を売る人」と「助言する人」が同じ立場で存在しているのです。
たとえば、「複数社を比較してご提案します」と言いつつ、実際は契約を取れば手数料が入るという販売型ビジネスが中心です。
この曖昧さが、マネーセミナーの問題や、FPと言いつつ実は保険代理店の営業マンだったという問題の温床になっています。
この詭弁ともいえるスキームは限界に近づいています。
欧米の場合
一方で欧米、特にイギリスやアメリカでは、「販売する人」と「助言する人」は法的に別の資格・別の制度で管理されています。
日本でいうところのFPは欧米ではIFAと呼びます。
(ややこしいことに、日本ではIFA=証券営業マンの意味になっているため、要注意です)
| 役割 | 主な目的 | 報酬の仕組み | 顧客との関係 |
|---|---|---|---|
| 販売代理(Agent) | 商品を売る | 保険会社などからの販売手数料 | 販売契約関係(顧客ではなく会社の代理) |
| IFA/RFP(独立系アドバイザー) | 助言・設計・相談 | 顧客からの相談料・顧問料 | 顧客の利益を最優先する信認義務(fiduciary duty) |
このため、欧米では販売代理なのに中立を名乗ることは許されません。商品を選定するための助言・アドバイスは販売者には許されていないのです。
助言は「独立(Independent)」であること、つまりどの会社の代理でもないことが求められます。
各国の状況を具体的に説明していきます。
【イギリス】Retail Distribution Review(RDR)の導入
2013年、英国金融行動監視機構(FCA)がRetail Distribution Review(RDR)を導入しました。
これはIFA( 金融アドバイザー)は販売手数料の受領禁止するというもの。顧客からの相談料のみで運営することになりました。
その結果、
・IFAの数は2012年の約35,000人から2023年には約26,000人に減少(FCA統計)
・しかし顧客満足度は上昇(2022年FCAレポートで顧客信頼指数+24%)
これは「販売型」から「助言型」への移行が倫理的に成功した例です
【米国】 Fiduciary Rule(フィデューシャリー・ルール)による規制強化
米労働省(DOL)が2016年に導入(2020年再施行)したFiduciary Ruleでは、退職勘定(IRAなど)に関する助言を行う者は顧客の最善利益義務を負うことになりました。
違反時には巨額の制裁金が課せられます。顧客利益より販売報酬を優先した行為(conflict of interest)は「不適切助言」として訴訟対象になります。
引用元:U.S. Department of Labor, Fiduciary Rule FAQ (2020)
【EU】MiFID II(Markets in Financial Instruments Directive II)
2018年に施行されました。EU全域で金融助言者は「報酬・手数料の開示義務」を負います。
具体的には、
・どの金融機関から、どのような手数料を受け取るかを顧客に文書開示。
・独立系助言者(Independent Adviser)は、販売報酬を受け取ること自体が禁止。
→ これにより「乗合=中立」は完全に否定される論理になりました。
引用元:European Securities and Markets Authority (ESMA), MiFID II Guidelines (2018)
日本の乗合代理店のFDは、欧米基準では“違反”
日本の乗合代理店は、構造的には「販売代理」のままです。
ただし、複数の保険会社と契約しているため、中立を装えるようになっています。
この「販売」と「助言」が混ざったグレーゾーンこそが、日本特有のモデルであり、大きな問題点です。
欧米の視点から見ると、
「顧客の利益を最優先する義務を持たずに、助言をしている」
という矛盾した形態になります。これは利益相反であり、違法行為です。
前述のとおり、イギリスのIFA制度では、このような混在モデルは2013年のRetail Distribution Review(RDR)改革で禁止されました。
販売手数料を受け取る「セールス」と、助言の報酬を顧客から得る「アドバイス」と、明確に線引きされたのです。
その結果、イギリスでは「乗合代理店」という形は消滅しています。
アメリカでも、Dual Registered Adviser、つまり助言と販売を兼ねる日本型のFPは厳しい監視下に置かれています。
金融庁の指導のもと、日本の乗合代理店ではFD宣言を制定していますが、利益相反を排除する根拠にはまだ薄いのが現状です。金融庁が目指すものを理解すれば、乗合は今後難しい時代になると理解できます。
欧米の倫理観では「乗合代理店」は利益相反
欧米では、金融アドバイザーにConflict of Interest(利益相反)の説明義務が課されています。顧客に対して、自分の立場を明確にしなければなりません。
たとえば、
- 特定の会社と提携しているか?
- 手数料はどこから出るのか?
- 顧客と契約するのか、販売会社の代理なのか?
これを説明せずに助言を行うと、「misleading(誤解を招く行為)」として処罰されます。
つまり、欧米の倫理観では、
「複数社を扱える=中立」ではなく、
「複数社から手数料をもらう=利益相反」
とみなされる違法となるのです。
このように欧米の規制環境では日本型の乗合代理店は倫理的に通用しないのです。
欧米では「販売手数料で食べるFP」は淘汰された
もう一つの違いは、報酬の構造です。
欧米では、IFAは顧客から直接フィー(相談料・顧問料)を受け取る形が主流です。
一方で、日本のFP・保険代理店の多くは販売手数料依存型です。
当社もまた、相談料は無料で、保険販売を始めとした収益事業に依存した構造になっています。
つまり、日本では何かを売らなければ収入になりません。この構造では、どれほど中立を標榜しても、顧客の購買代理をすることにはなりえません。
欧米ではこれをSales disguised as Advice(助言を装った販売行為)と呼び、倫理上の問題と厳しく指摘されます。
「欧米型IFA」と「日本型乗合代理店」の構造比較
| 項目 | 欧米のIFA | 日本の乗合代理店 |
|---|---|---|
| 立場 | 顧客の代理(fiduciary) | 各保険会社の代理 |
| 報酬 | 顧客からのフィー(相談料・顧問料) | 保険会社からの販売手数料 |
| 中立性 | 開示義務あり(バイアス透明) | 不透明・収賄行為多発 |
| 規制 | 強い倫理規制・登録制 | 形式的コンプライアンス |
| 顧客との契約関係 | 顧問契約(助言契約) | 販売者 |
| 倫理観 | 透明性・説明義務 | 収益構造の隠蔽 集客目的の隠蔽 |
制度的にも倫理的にも、今の日本型乗合代理店モデルは、今後消滅するビジネスモデルといえます。
日本でも「IFA的なFP」への転換期にある
もっとも、日本も少しずつ変化の兆しを見せています。
金融庁が掲げる「顧客本位の業務運営(Fiduciary Duty)」は、まさに欧米IFAの倫理を参考にしています。
しかし金融庁の理想はまだ道半ば。大手乗合代理店が保険会社から金銭を受け取り、顧客に優先的に商品を提案したいたことが発覚するなど、問題を抱えています。しかもその会社は「FP」を標榜するという悪質さが際立っています。
時間はかかるかもしれませんが、今後は乗合代理店のようなビジネスモデルは完全に消滅すると見ています。
しかし、日本では法整備にハードルがあります。
欧米型IFAのように、助言と販売の役割を分けることが理想だとしても、日本では厳しい法律の壁があるのです。
もし助言型FAがいたとしても、日本の法律では、保険募集人の資格がない者は保険商品の具体的な内容について言及することは違法になります。
そして保険募集人の保険募集人資格は、必ず特定の保険会社1社に紐づくルールです。退職したら募集人の資格がなくなります。
つまり、保険について具体的なアドバイスをするためには特定の保険会社の募集人にならなければなりません。
「保険を売らないファイナンシャルプランナー」を標榜しているFP事務所は日本に数多くありますが、実際のところ、具体的な商品内容に言及し助言するのは違法であるのが現実なのです。そのため保険のアドバイスは一般論に留まります。一般論を並べるだけのFP相談では助言業とは呼べず、ましてやそれに対して相談料をもらうのは不可能でしょう。
今後、法整備が整ったら、欧米型の助言業と販売業のすみわけが始まります。
当社はいずれ助言と販売を分離することになります
当社は日本特有の法律の問題から、助言業と販売業を兼ねたFP事務所です。そのため、利益相反を絶対に防ぐことはできません。
しかし、そう遠くない将来、助言と販売を切り離すことになるでしょう。
それまでの過渡期のあり方として、一社専属の代理店を選択しています。収益構造や販売手数料などの経済的バイアスを開示し、透明性を高めていく過程にあります。
保険会社を複数扱って中立であると詭弁を述べるよりも、一社の商品だけに絞って説明責任を果たし、ライフプランニングに注力することで、FP事務所としての責務を果たしています。



























