身体障害者手帳1級に認定されると、公的支援はある?
病気や事故により身体に重度の障害が残った場合、日常生活を支えるために様々な公的支援が必要となります。
その中心となるのが「身体障害者手帳」です。中でも「1級」は最も重度の障害を持つ方が対象となり、税金の優遇措置や各種手当、そして生活の基盤となる障害年金など、手厚い支援が用意されています。
しかし、「どのような状態だと1級に認定されるのか」「具体的にどんな税金の優遇やサービスが受けられるのか」「リハビリで回復したら手帳や年金はどうなるのか」など、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
この記事では、身体障害者手帳1級の認定基準から、税制上の優遇措置、手当、障害年金、国民年金保険料の免除、そしてリハビリによる回復後の手帳や年金の扱いまで、網羅的かつ分かりやすく解説します。ご自身やご家族の状況と照らし合わせ、適切な支援に繋げるための一助となれば幸いです。
身体障害者手帳1級とは?
身体障害者手帳は、身体障害者福祉法に基づき、身体の機能に一定以上の障害があると認められた方に対して交付される手帳です。
障害の程度に応じて1級から7級までの等級に区分されており、1級は最も障害の程度が重い等級と位置づけられています。
1級に認定されるのは、視覚や聴覚、肢体(手足や体幹)の機能、あるいは内部障害(心臓、腎臓など)が極めて重度であり、日常生活において全面的な支援を必要とする状態の方が対象となります。
この手帳を所持することで、後述する様々な福祉サービスや税制上の優遇措置を受けることが可能になります。
身体障害者手帳1級に認定される障害の種類
身体障害者手帳の対象となる障害は、身体障害者福祉法で定められています。1級に認定される障害の種類は次のような種類があります。
- 視覚障害: 視力の低下や喪失、視野の欠損など。
- 聴覚又は平衡機能の障害: 聴力の低下や喪失、平衡感覚の著しい障害など。
- 音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害: 発声や言語能力、食べ物を噛み砕く能力の喪失など。
- 肢体不自由: 上肢(腕・手指)、下肢(脚・足指)、体幹(胴体)の機能障害。脳卒中後の麻痺や事故による切断などが含まれます。
- 内部障害:
- 心臓機能障害
- じん臓機能障害
- 呼吸器機能障害
- ぼうこう又は直腸の機能障害
- 小腸の機能障害
- ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能障害
- 肝臓の機能障害
身体障害者手帳1級の具体的な認定条件
1級の認定は、医師の診断書・意見書をもとに、厚生労働省が定める「身体障害者障害程度等級表」に基づいて行われます。ここでは、主な障害における1級の認定基準を抜粋してご紹介します。
【視覚障害】
- 両眼の視力の和が0.01以下のもの
【聴覚障害】
- 両耳の聴力レベルがそれぞれ100デシベル以上のもの(両耳全ろう)
【肢体不自由】
- 上肢:
- 両上肢の機能を全廃したもの
- 両上肢のすべての指を欠くもの
- 下肢:
- 両下肢の機能を全廃したもの
- 両下肢を足関節以上で欠くもの
- 体幹:
- 体幹の機能の障害により坐っていることができないもの、又は立ち上がることができないもの
大幅な負担減!身体障害者手帳1級で受けられる税金の優遇措置
身体障害者手帳1級を所持していると、「特別障害者」として扱われ、税制面で大きな優遇措置が受けられます。
1. 所得税・住民税の「障害者控除」
納税者本人、控除対象配偶者、または扶養親族が身体障害者手帳1級を持っている場合、所得から一定額が控除され、所得税や住民税の負担が軽減されます。
| 控除の種類 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
| 特別障害者控除 | 40万円 | 30万円 |
| 同居特別障害者控除 | 75万円 | 53万円 |
2. 相続税の「障害者控除」
相続人(相続財産を受け取る人)が85歳未満の特別障害者である場合、相続税額から一定額が控除されます。
計算式: (85歳 – 相続時の年齢) × 20万円
3. 自動車税・軽自動車税などの減免
身体障害者手帳1級の方(またはその方と生計を同じくする方)が所有し、障害のある方のために使用する自動車は、自動車税等の減免が受けられます。
東京都の場合は以下のリンクを参考にしてください。各都道府県にも同じ制度があります。
東京都・自動車税環境性能割・自動車税種別割の減免制度のご案内
税金以外にも!生活を支える年金・手当・サービス
1. 障害年金
障害年金は、病気やけがによって生活や仕事などが制限される場合に受け取れる公的年金です。身体障害者手帳の等級と障害年金の等級は必ずしも一致しませんが、手帳1級に該当する方は、障害年金の1級または2級に認定される可能性が高いです。
2. 国民年金保険料の免除(法定免除)
身体障害者手帳1級または2級の交付を受けている方は、国民年金第1号被保険者である場合、届け出ることにより保険料の全額が免除されます。
3. 特別障害者手手当
精神または身体に著しく重度の障害があるため、日常生活において常時特別な介護を必要とする20歳以上の在宅の方に支給される手当です。
4. その他のサービス
医療費助成、公共料金の減免、交通機関の割引、補装具の給付など、多岐にわたるサービスが利用できます。
5.生命保険は「高度障害」に該当することが多い
自分が加入している生命保険(死亡保険)の「高度障害」に該当する可能性が高いです。その場合、高度障害保険金(死亡保険金と同じ金額)を受け取ることができます。ただし高度障害保険金を受け取ると、その保険契約は消滅します。
この部分は見落としがちなので、必ず生命保険会社のコールセンターに問い合わせてください。当社でご契約している方の場合は、当社までご相談ください。
リハビリで回復したら手帳や年金はどうなる?
Q1. リハビリで回復したら、身体障害者手帳は無くなる?
結論から言うと、リハビリによって心身の状態が著しく改善し、手帳の等級基準に該当しなくなった場合は、等級が変更されたり、手帳を返還したりする必要が生じます。 これは「権利の剥奪」というネガティブなものではなく、「再認定」という定期的な見直しの結果です。
身体障害者手帳は、あくまで現在の障害の状態に応じて交付されるものです。そのため、特に脳卒中後のようにリハビリによる状態の変化が見込まれる障害の場合、数年後に障害の程度を再確認する「再認定」の時期が設けられることがあります。等級が下がったり、手帳が非該当になったりすることは、リハビリの成果が出たという喜ばしい状態でもあります。
Q2. 回復したら、障害年金は支給停止になる?
はい、その可能性があります。 障害年金も身体障害者手帳と同様に、現在の障害の状態に基づいて支給されるため、定期的な見直しが行われます。
- 障害年金の更新制度 障害年金を受給している方には、日本年金機構から定期的に(障害の種類により1~5年ごと)「障害状態確認届(診断書)」が送付されます。この診断書を医師に作成してもらい提出することで、障害の状態が継続しているかどうかの審査が行われます。
- 審査の結果 提出された診断書の内容に基づき、以下のいずれかの決定がなされます。
- 等級維持: これまでと同じ等級で支給が継続されます。
- 等級変更(増額・減額): 障害の状態が重くなった場合は上位の等級へ、軽くなった場合は下位の等級へ変更され、年金額も変わります。
- 支給停止: 回復により、障害年金の等級(障害厚生年金は3級、障害基礎年金は2級)よりも軽い状態になったと判断された場合、年金の支給が一時的に停止されます。
- 支給停止は「権利の消滅」ではない 大切なのは、支給停止は「年金を受け取る権利が完全になくなった」わけではないという点です。もし、その後再び障害の状態が悪化した場合は、支給停止の解除を申し出ることで、審査を経て年金の受け取りを再開できる可能性があります。
身体障害者手帳の申請から交付までの流れ
- 市区町村の窓口で相談・申請書類の入手
- 指定医による診断・診断書の作成
- 必要書類を窓口に提出
- 審査・交付
身体障害状態になったときに、病院から身体障害者手帳や介護認定の申請の仕方を教わります。病院やケアマネージャーへの提出も必要になるので、速やかに手続きをすることが大切です。
申請してくれる家族がいない場合は?
身体障害者手帳や障害年金の申請は、書類の準備などが複雑で、ご本人の負担が大きい場合があります。ご家族のサポートが難しい場合でも、以下のような相談先があり、申請を手伝ってくれます。
1. 病院の「医療相談室」や「ソーシャルワーカー」
まず最初に相談すべき最も身近な専門家です。 入院中や通院中の病院には、ほぼ必ず「医療相談室」や「地域連携室」といった部署があり、そこにソーシャルワーカー(医療ソーシャルワーカー)がいます。
- サポート内容:
- 利用できる制度(身体障害者手帳、障害年金、介護保険など)について詳しく教えてくれる。
- 申請に必要な書類の準備を手伝ってくれる。
- 医師への診断書の依頼を円滑に進めてくれる。
- 市区町村の窓口や他の専門機関と連携してくれる。
相談支援事業所
障害のある方の生活全般に関する相談に応じ、必要なサービスを受けられるように計画を立ててくれる専門機関です。
相談支援事業所とは?
障害のある方やそのご家族のための、公的な相談窓口であり、福祉サービス利用の計画を立ててくれる専門機関です。
市区町村から指定を受けた社会福祉法人やNPO法人などが運営しており、障害のある方が地域でその人らしく自立した生活を送れるように、様々な面からサポートしてくれます。
主な役割とサポート内容
相談支援事業所では、「相談支援専門員」という専門のスタッフが対応してくれます。利用は原則無料です。
1. 福祉に関するあらゆる相談(基本相談支援)
- 「身体障害者手帳の申請をしたいが、一人では難しい」
- 「どんな福祉サービスが使えるのか知りたい」
- 「将来の生活が不安だ」
- 「家族のことで悩んでいる」
このように、生活の中での困りごとや悩み、不安など、どんなことでも相談に乗ってくれます。申請手続きを手伝ってくれたり、適切な窓口や機関を紹介してくれたりします。
【障害年金の場合】社会保険労務士(社労士)
障害年金の申請を専門に扱う国家資格者です。手続きが非常に複雑な障害年金の申請において、心強い味方となります。
- サポート内容:
- 複雑な書類の作成や、医師への診断書依頼、年金事務所とのやり取りまで、申請全体を代行してくれます。
- 受給の可能性を高めるための専門的なアドバイスがもらえます。
- 費用: 費用はかかりますが(多くは着手金+年金受給決定後の成功報酬)、無料相談を実施している事務所も多いので、一度話を聞いてみることをお勧めします。
まとめ
身体障害者手帳1級は、日常生活に大きな困難を抱える方が対象となる最も重い等級です。認定を受けることで、税金の控除や減免だけでなく、生活の根幹を支える障害年金や国民年金保険料の免除、各種手当、医療費助成など、多岐にわたる支援を受けることができ、経済的・精神的な負担を大きく軽減することが可能です。
脳卒中で一級の手帳の認定をもらった場合でも、リハビリによって脳の可塑性が起き、身体機能が回復する可能性があります。そうなると、手帳も障害年金も、定期的な見直しによって等級が変更されたり、支給が停止されたりすることがあります。
これは支援が次第に不要になった証であり、リハビリの大きな目標の一つとも言えます。権利を剥奪されたとつい感じてしまいますが、身体機能の回復と社会復帰は非常に喜ばしいものです。
受けられるサービスは多岐にわたり、その多くはご自身での申請が必要です。どのような支援が利用できるか、手続きの方法が難しいと感じる場合は、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口や年金事務所、地域の相談支援事業所、社会保険労務士、医療機関のソーシャルワーカーなどに相談してみてください。



























